◆ネタバレ注意◆
各ファイルの部分にも記載していますが、かなりのファイルにネタバレなど、本編クリア前に見てしまうと楽しみを損なってしまう物が含まれています。
MGSPWが発売されてからかなり経っていますし、ほとんどのプレイヤーさんがクリア済みであるとは思いますが、そういったものを気にされる方はご覧にならないほうがよろしいでしょう。
各キャラクターのセリフは
S | スネークのセリフ |
---|---|
K | カズのセリフ |
P | パスのセリフ |
A | アマンダのセリフ |
C | チコのセリフ |
CE | セシールのセリフ |
H | ヒューイのセリフ |
ST | ストレンジラブのセリフ |
と表記します。
※ブリーフィングファイル画面、LRボタンで切り替え可能なファイルライブラリから聞けるものの一覧です。
メイン、エクストラオプスで聞けるものは除外してあります。
各キャラ同士のかけあいだったり、シリアス、コミカルなものが多くなっています。
かなりネタバレを含んでいますのでご注意ください。
・「新型プラント」
K:新型のプラントはヘックスタイプだ。今までのものより面積も広いし、増築も計画的に行える。派手に拡大できるぞ。
S:ヘックスか。蜂の巣みたいだな。
K:蜂の巣、結構じゃないか。ハニカム構造は強度が高いって言うぞ。戦車の装甲にも採用が検討されていると聞く。
S:了解だ。せっせと蜜を運ぶとしよう。
K:頼んだぞ、ボス。
・「女王蜂」
S:ちなみに女王蜂は誰になるんだ?
K:そうだな? 俺はパスだと思うけどな。
S:そうか、俺はストレンジラブ…。
K:そうだな、セシールもそうかも。
S:いや、アマンダとも云えるかも。
K:スネーク、こうしよう。うちの女王蜂は女性陣みんなだ。
S:了解。
・「国境なき軍隊」
K:スネーク、思い出してくれ。
俺たちの創った国境なき軍隊…。
MilitairesSansFrontieres(ミリテール・サン・フロンティエール)の目的は国家や思想に囚われず、必要な土地、勢力に必要な軍事力を供給することだ。
ご大層な信念があるわけじゃないが…。
S:国の思惑には振り回されない。
K:そうだ。俺たちは戦うことしかできないが…国家の事情に翻弄されずに生きる。
MSFのマークは2憶5千万年前の、パンゲア大陸をモチーフにしている。世界がひとつの大陸だった時代。
隔たりのないひとつの世界。
S:俺たちの力はそこに還元する。
・「MSFの目指すもの」
S:カズ、お前はどうなんだ? MSFを拡大したいのか?
K:もちろんだ。あんたの言うとおり、MSFをどこの国の干渉も受けないような組織にしていきたい。
自分たちを守るためにも相応の力が必要だ。
多くの兵力を養うにも金が要る。
そのためにもMSFをもっと新しいビジネスにしたいんだ。
直接的な戦闘だけじゃなく、兵站、訓練、武器の整備や開発、軍事に関するあらゆることを請け負うような組織だ。
特殊部隊のような少数精鋭の行動力と正規軍にも対抗できる軍事力。
それだけの力があってこそ、国家の干渉から逃れることができる。
とにかくボスはフルトン回収で使えそうな奴を集めてくれ。
それから、人員配置の指示を頼む。
あとの細かいことは俺に任せてくれ。
・「特殊部隊」
K:あんたの師匠だったザ・ボスは西側では特殊部隊の母とも呼ばれていたんだってな。
S:プロパガンダに過ぎん。
K:だが嘘でもないだろう。最近じゃKGBは破壊工作対策課ってのを立ち上げたらしい。アルファグループって言ったかな。
ドイツではミュンヘンオリンピックの事件を受けて、国境警備隊にカウンターテロ部隊を創設したという噂もある。
我らがアメリカといえば光輝栄えあるグリーンベレーにSEALチーム、そしてあんたが創ったFOXHOUND…。
ザ・ボスが撒いた種が芽を出し始めているんだ。
MSFもそうだ。だろう? あんたが創ったんだ。ザ・ボスの遺志を継いでな。
S:ボスに戦い方を叩き込まれた。
K:お陰で俺たちは通常戦闘以外の任務もやれる。
正規軍の特殊部隊と母親が同じなんだからな。
・「メタルギアの必要性」
K:スネーク、あんたの言うとおりだ。俺たちが”国境なき軍隊”である限り、狙われる。抑止する力が必要なんだ。
S:国々を渡り歩けば、様々な紛争に足を踏み入れることになるだろう。
そこではイデオロギーも、地理も、政治状況も、何もかもが異なる。
そんな状況での軍事支援活動には、メタルギアのような牽制力が必要だ。
K:…ボリビアで最期を遂げたゲバラのようにならないためにも。
S:そうだ。俺たちMSFは、自分たちの土地を持たない。ノーマッドだ。遊牧民のようなものだ。
俺たちと一緒に歩ける、牧羊犬が必要なんだ。
K:ああ。
S:ザ・ボスのやり方とは違うかも知れない。
だが、世界には俺たちを必要としている場所がある。MSFを必要としている兵士達がいる。
そうである限り、俺たちは歩みを止めない。行脚をやめるわけにはいかない。
俺達こそがピースウォーカーだ。
・「嗅ぎ煙草」
K:スネーク、覚えているか? パスのクセだ。いつもこう、上唇に人差し指をあてていた。
S:ああ、初めて会った時から気になってはいたが…まさか嗅ぎ煙草とはな。
K:全く気付かなかった。
S:葉を入れた袋を上あごに挟む。歯茎から吸収するタイプだ。
本人も慣れてなかったのかもしれん。人差し指で位置を直していたんだろう。
・「CIPHER」
K:まさかパスが…バンドを組もうって言ってたのに。
S:彼女はKGBとも通じていた?
K:素性を隠してガルベスに近づいたんだろう。コールドマンはどこまで知っていたのか…。
だがそれも”CIPHER”とかいう組織のための工作だった。
S:”CIPHER”…カズ、聞いたことがあるか?
K:んー、サイファー…「暗号」、か。あるいは「アラビア数字」「0」…。
S:ゼロ…。
K:心当たりがあるのか?
S:さあな。
K:もともとサイファーとゼロは同じ言葉だったんだ。二重語だな。
起源はサンスクリット語のsunyaに遡る…仏教で言うところの「空」だ。
仏教で言う「空」は”虚ろな”といった意味だ。膨れ上がることで、中身が空になった状態を指したらしい。
S:膨張してできた空か…まるで宇宙だな。
・「冷戦」
K:コスタリカだけじゃない。中南米は冷戦の煽りで大国に掻き回されている。
東西を二分したイデオロギーの対立も、結局は支配階級同士の富の奪い合いだろうな。
西側の金持ちたちにとっちゃ、国が共産化したら大変だ。共産主義は本来、私有財産を否定してるわけだからな。
資本主義の支配者たちは躍起になって世界が共産化するのを防ごうとした。
アカ狩りなんてのもあったな。
一方で共産主義も思想通りには進まなかった。
階級社会からの脱却を目指した結果が、スターリンの独裁や特権階級による民衆支配だ。
力を持った人間はもはや平等など求めない。そこに共産主義の、いや、社会という集団の限界がある。
奴らが欲したのは自らの利益だけだろう。
相手陣営は自分の利益を脅かす危険因子だった。そこで資本主義と共産主義の対立構造が生まれたのさ。
S:それに核抑止が絡んだ。
K:そのとおりだ。
・「核抑止と相互確証破壊」
K:第二次大戦以降、世界規模の大戦がなくなったのは核兵器誕生のためだと言われている。
戦争になったら相手は核を撃つかもしれない。そう考えると安易な武力衝突は出来なくなる。
特にICBMができてからは、どこにいても安心できなくなった。
S:そのぶん軍事費は膨れあがったが…。
K:先制攻撃を受けないためには、自分たちの核の力を誇示するしかないからな。
おかげで核兵器の威力は飛躍的に進歩した。
破壊力だけじゃない。遠く離れた目標に正確に命中させる技術もだ。
宇宙開発競争はそのデモンストレーションでもあった。
S:その結果がMADか。
K:核抑止の究極形だ。撃ち返されて自滅することがわかっていれば誰も核なんて撃たない。
S:…わからんぞ。誰かが間違って核のボタンを押す可能性もゼロじゃない。
・「冷戦と平和」
K:確かにMADによる平和には、事故による危険が付きまとう。
S:機械の誤作動なんかで世界が終わられちゃ困る。
K:とはいえ、核抑止のおかげで世界大戦はあれ以降起きてないんだ。ずいぶんと平和になったじゃないか。
S:俺達とは無縁だがな。
K:核開発競争だの宇宙開発競争だので冷戦などと言うが、武力衝突がないならむしろ世界は平和というべきだろう。
S:戦争がなくなったわけじゃない。朝鮮戦争やベトナム戦争を見てみろ。
K:それはそうだが、相対的な話さ。
それに、戦争が根絶されたら俺たちが困る。
S:…俺たちは戦争屋じゃない。
K:とはいえ、平和な世界にも生きられない。
S:それはそうなんだが…。
・「キューバ危機」
K:キューバ危機から、もう10年以上も経つんだな。
S:だが、忘れようもない事件だ。
K:ああ。1962年10月15日からの13日間は、世界が最も全面核戦争に近づいた日々だと言っていい。
ソ連によるキューバへの核ミサイル配備。それに対抗したアメリカの海上封鎖、そして米軍偵察機の撃墜…。
あの頃俺はまだ10代だったが、核戦争一歩手前という空気は、よく覚えているよ。大人達は大騒ぎだった。
S:キューバ危機がなければ、あるいはスネークイーター作戦もなかったかも知れん。そして…。
K:どうしたスネーク。仮説の話をするなんて、あんたらしくもない。
S:…そうだな。そのキューバ危機への反省から、米ソのホットラインが敷かれ、デタントも進んだ。皮肉なもんだ。
・「トラテロルコ条約」
K:トラテロルコ条約は、中南米の非核化を目指した条約だ。
核兵器の実験・使用・製造・生産・取得・貯蔵・配備を禁止している。
キューバの核配備に始まった一連の危機が、条約締結の契機となったようだ。
S:そうだろうな。あの13日間は、全世界が核戦争勃発の恐怖に凍りついた。
K:現時点では、その肝心のキューバが未参加だが。
S:とはいえ、20ヶ国以上が批准している条約だ。踏みにじれば国際的に糾弾される。
K:そうだな。ラテンアメリカ核兵器禁止機構も調査に入るだろう。
条約作成に当たっては、日本の非核三原則の概念を参考にしたそうだ。
もっとも、トラテロルコ条約は「加盟国に対して核兵器を使わない」ことを核兵器保有国に求めている。
ここが非核三原則と大きく異なるところだ。つまり4番目の原則があるということだな。
・「コスタリカの軍隊廃止」
S:コスタリカが軍隊を廃止したのは、1949年だったか? 当時の中米で、よくそんな決断ができたもんだ。
K:内戦が終わったばかりだったからな。パスが言うように、その悲劇を繰り返すまい、という気持ちがあったのは確かだろう。
ただ、もっと切実な理由もあったはずだ。
中南米では、軍部がクーデターを繰り返す国が珍しくない。それを間近で見ていれば…。
S:軍隊がなければ、軍部によるクーデターもない…道理だな。
K:それに経済が疲弊していて、軍隊に回す金がなかった、というのも正直なところだろう。
S:だが当時のニカラグアとは、決して友好的な関係ではなかったはずだ。
K:ああ。実際に侵攻されたこともある。だが、市民警備隊の反撃や、OASの仲介によって停戦となった。
アメリカを始めとした、OASの後ろ盾を十分に活用したわけだ。
火種だらけの中米で、四半世紀も軍隊なしでやってきたんだ。外交努力は必須ってところだろう。
市民警備隊の装備も警察にしては豪華だが。
S:「軍隊のない国」も大変だな。
・「中米におけるCIAの活動」
K:スネーク、差し支えなければ訊きたいんだが。
S:なんだ、いつものように図々しくしたらどうだ。
K:…あー、CIAのパラミリタリーに所属していたことがあるんだよな。
S:そうだ。
K:中米でも作戦を?
S:いや、それはない。だが、別の部隊は色々やってたようだ。
K:61年のピッグス湾事件は俺もよく覚えている。新聞が派手に書き立てたからな。
S:「ザパタ作戦」。手ひどい結果に終わった。
K:それにボリビアでのゲバラ追討。これもCIAが関与したと言われてるが…。
S:MSPだとかSOGだとかいった名前も聞くが、俺の原隊、FOXと似た性格の下部組織がいくつかある。
特殊部隊出身の要員に諜報員としての訓練を施し、ディナイアブルな秘密の準軍事作戦に従事させるんだ。
その連中がボリビア政府軍に対ゲリラ戦術を教え…。
K:…ゲバラを討たせた。
S:だろうな。
・「CIAの読み方」
K:CIAの事をこっちの連中は”ラ・シーア”と呼んでるよな。
S:不思議でも何でもない。スペイン語の発音規則に則ればそうなる。
K:語尾が女性形と同じだから定冠詞も”ラ”になる、と。
最近一部では、UCLAという言い回しも使われてるらしいな。
S:知らんな。どういう意味だ。
K:”UnilaterallyControlledLatinoAssets”の頭文字を取った言葉らしい。
S:エージェントのことか?
K:ああ、どうもそうらしい。合衆国政府が捨て駒として使ってる連中らしいんだが、具体的な素性や何をしているかの詳細は不明だ。
・「CIAとKGBの関係」
K:CIAとKGBが手を結んでいたとは、驚いたよ。
S:支局長クラスが手を組むとはな…現場の諜報員同士が顔見知りになるっていう話は聞くが。
K:そうなのか?
S:諜報活動の舞台は、当然政治的にホットな場所ということになる。
だが、そういった場所は限られている。特に小さい国ではな。
そこに足繁く通っていれば、お互い嫌でも顔を合わせることになるだろう。
そのうち挨拶をするようになり、一緒にメシを食うようになり…。
K:恋の花咲くこともある、か?
S:それはわからん。ともかく、そういった馴れ合いが高じた結果が、この茶番なのかも知れん。
利害が一致すれば、忠義すら投げ捨てる連中もいるとはな…。
K:情に訴えられる事が、人的諜報のメリットだが、同時に情にほだされてしまうのがデメリットでもある。
だから今の諜報世界の潮流は、シギントに移行しつつある。
情の関与しない、デジタルな情報のみのネットワークだ。
・「グレナダ」
K:スネーク、ちょっといいか?
S:どうした?
K:グレナダのゲイリー首相が国連にUFO問題を扱う専門機関の設置を要請したらしい。
S:グレナダ…カリブ海沖の島国か。
K:報道でゲイリー首相がUFO存在の証拠として挙げていたという写真の中に、気になるものがあった。
S:これは…。
K:ああ…。ヒューイがクリサリスと呼んでいる兵器だ。
S:…カズ、これは俺がチコに渡した写真だ。
チコはUFO写真として売ると言っていたが…。
K:どうやらこの写真は雑誌に掲載されてしまったようだな。
S:しかし…一国の首相が、雑誌の与太話を信じるのか?
K:最近はアメリカ大陸全域でアブダクションやキャトルミューティレーションの話が多い。
S:UFOによる誘拐、それに家畜の変死か。
K:CIAが絡んでいるのかもしれん。
S:だとしたら、ゲイリーとやら…。
K:ああ。深入りするとマズいことになりかねない。
S:だがグレナダと言えばキューバの目と鼻の先だ。
K:その意味ではCIAも手出ししにくいかもしれないが…。
S:国内のパワーバランスを崩せば、一気に共産化する可能性もある。
K:そうだな…。いずれにせよ、俺たちに何ができるわけでもないが。
一応、耳に入れておきたかった。
S:わかった。写真はあまり表に出さないように気をつけよう。
・「チェ・ゲバラ」
K:聞いたぞ、スネーク。アマンダにゲバラと間違えられたそうだな。
どうだ、まんざらでもない気分か?
S:よしてくれ。俺なんかゲバラの足下にも及ばん。
K:謙虚だな。俺からすれば、あんたも十分偉大な人間に見える。
S:相手は「20世紀で最も完璧な人間」だぞ?
K:サルトルか? まあ、ゲバラはすっかり時代のイコンになっちまったからな。
S:それ以上に誠実な革命家で、偉大な戦士だった。
K:そいつには同意だ。何しろカストロと一緒にキューバへ渡った直後、仲間は12人しかいなかったって言うじゃないか。
S:だが、彼らはそこから巻き返した。仲間を集め、組織を拡げ、農民の支持を得た。
K:そして、最後にはバティスタ政権を倒した…。
S:誠実さゆえに人が集まり、強いからこそ勝利した。偉大な資質だ。
K:まあ、俺達が置かれた状況も似たようなもんだ。
これだけの小勢で、アメリカがバックにいる軍隊に弓を引こうってんだから。
S:ゲバラへの道は遠い。
K:だが、歩んでいくほかない。戦いに勝つだけでなく、人を集め、MSFを拡大する事にも、気を配ってくれ。
S:了解だ。
・「ゲバラの足跡」
K:なあ、スネーク。俺は最近思うんだが…ゲバラも結局、戦場以外に居場所を見つけられなかったんじゃないかな。
S:どういう意味だ?
K:ゲバラはキューバ革命を成し遂げた。偉大な戦果だ。そこにあぐらをかいたって、誰も責めないはずだ。
なのに、ゲバラは暖かい家庭も大臣の座も捨てて、革命の戦地に身を投じたんだ。
コンゴ。そしてボリビア。そこが彼の最期の地になった。
S:考えすぎだ。ゲバラが再び戦場へ赴いたのは、そこが彼を必要としたからだ。「別れの手紙」を読めばわかる。
K:理想主義が過ぎて、政府に居場所がなくなったって話もある。
S:彼の潔癖さのせいだろう。
K:そりゃそうなんだが…。
ただ、俺やあんたがゲバラに惹かれるのは、自分に似た匂いを感じるからじゃないか…そう思っただけさ。
祖国を出て戦いに身を投じ、自分が必要とされる戦場を渡り歩く…。
S:ゲバラは戦士である以上に革命家だった。理想を実現するために銃を取った。
俺は思想のために戦わない。俺は戦士だ。それ以上でも以下でもない。
K:わかったボス。その通りだ。偉大な英雄と自分を重ねてみたかっただけなんだよ。
・「ゲリラ戦の歴史」
K:ボス、ゲバラが書いた「ゲリラ戦争」は読んだか。
S:いや…どうだったかな。
K:せっかく貸してやったのに。この本に書いてあるゲリラの戦術は、潜入ミッションと共通する部分があるんだ。
ゲバラは、ゲリラ戦法を理論化した一人だからな。
他には”アラビアのロレンス”ことT.E.ロレンス少佐。「遊撃戦」を著した毛沢東…。
理論化はともかく、ニカラグアのサンディーノ将軍も、ゲリラ戦法を取り入れた一人だ。
FSLNがその名に掲げるだけのことはある。
S:もっとも、遥か昔からゲリラ戦法自体は存在した。少人数で大軍を攪乱する手段は限られるからな。
K:日本にも、ゲリラ戦法に長けたサムライがいたぞ。
S:ほう。
K:楠木正成。中世の武士だ。奇襲攻撃を駆使して、鎌倉幕府の転覆に一役買った。
S:例えばどんな?
K:トロイの木馬戦法での潜入、デコイでの攪乱…。極めつきは城壁を登ってくる敵に、熱湯や糞尿を…。
S:そいつはいい。早速MSFでも取り入れよう。
K:…本気か? ボス。
S:材料には事欠かないからな。
K:あー、まあしばらく考えておこう。
・「マテ茶」
S:カズ、どうした。声に元気がないぞ。
K:いや、こっちもいろいろ問題が山積みでな…。
S:マテ茶でも飲んで、一服するといい。隊の連中と回し飲みすれば、コミュニケーションにもなる。
K:ゲバラ達も、そうやってマテ茶を回し飲みしたのかな。
S:そうだろうな。彼のマテ茶好きは有名だ。
K:しかし、よく考えたもんだ。ヒョウタンに入れて携帯できるし、ストローに漉し器がついているから、すぐ飲める。
S:それだけじゃない。食料が不足しがちなゲリラ戦において、ビタミンやミネラルの補給にもなる。
K:俺もハイキングの最中に、金髪のパリジェンヌと回し飲みできれば最高なんだが。
S:…何で知ってるんだ。
K:蛇の道は蛇だよ、スネーク。
・「ゲバラの広島訪問」
K:キューバ革命が成功した年、ゲバラは経済使節団の代表として訪日した。そこで彼は、広島を訪れている。
S:ヒロシマか…。
K:経済使節と言うこともあって、広島訪問はもともとの予定になかった。
外務省が行かせたがらなかった、という話もある。だが彼は広島へ向かった。突然の訪問だったそうだ。
S:まさにゲリラ訪問だな。ゲバラらしい。
K:原爆資料館と原爆病院を見学したゲバラは、相当ショックを受けたらしい。
彼は医者だ。被爆者の苦しみは痛いほどわかったろう。
S:核はすべてを破壊する…。
K:ゲバラはこう言ったそうだ。「こんなにされてなお、あなた達はアメリカの言いなりになるのか」と。
…俺にとっても重い言葉だ。お袋のことを考えるとな。
彼はこうも言った。「これからは広島を、広島の人々を愛していこう」。
S:彼らしい話だ。ゲバラは他人の痛みに鈍感になれなかった男だ。それゆえ愛され、そして死んだ。
・「スカーフ」
K:あんたがいつも巻いているバンダナ、随分な年代物だな。新品にしたらどうだ?
S:いや、いい。
K:だが我々のボスが、ボロボロのバンダナを巻いてるってのも…。
S:いや、これは人から譲り受けたものだ。捨ててしまうわけにはいかない。
K:ああ、そういうことなら…。そう言えばゲバラも、黒いスカーフを大事に持っていたらしいな。
S:スカート?
K:…いや、スカーフだ。
S:ああ。
K:戦闘で腕の骨を折った際、仲間からもらったそうだ。
ゲバラはその絹のスカーフで腕を吊り…スカーフをくれた相手は、彼の後妻になった。
S:アレイダとか言ったな。
K:腕が治ってからも、ゲバラはそのスカーフを、肌身離さず持っていたそうだ。
そのバンダナも、いい人からもらったのか?
S:そんなんじゃない…だが、大事なものだ。
・「日本の平和憲法」
S:「日本にも平和憲法がある」と言っていたな。
K:ああ。戦争の放棄を謳った、憲法第9条だ。
1、日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し…。
国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2、前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
S:…よくすらすらと出てくるな。
K:昔取った杵柄だ。
S:大したもんだ。しかし、ちょっとわかりづらいな。「解決する手段としては」とか。
K:そう、そこが議論になっている。全ての武力行使を否定しているのか、という点だ。
もともと、今の憲法は連合軍の占領下で制定された。草案も、当時の連合国司令部から提示されたものだ。
だから、憲法は外国に押し付けられたものだ、と考える人間もいる。
S:どの国にも、込み入った事情があるということか…。
K:だが、”軍隊”を持たないことで、戦後の日本が経済復興を優先できたのは確かだろう。そこはコスタリカと同じだ。
・「9条と自衛隊」
S:カズ、お前日本じゃ自衛隊にいたんだよな。
さっき聞いた憲法第9条では、日本は軍を持たないことになっていたはずだが…。
K:そう、それもまた議論のタネだ。
「自衛隊は防衛のための組織であり、憲法第9条は自衛権までは否定していない。従って、自衛隊は合憲である」。
これが日本政府の見解だ。
S:…複雑だな。
K:良いか悪いかは別にして、これは実に日本的な解釈だよ。
・「日米安全保障条約」
S:日本には、アメリカ軍が駐留していたな。
K:そうだ。連合国による占領が終わった後も、日米安全保障条約に基づいて、米軍が駐留を続けている。
S:そこはコスタリカと違うな。
K:占領って経緯もあるが、そもそもアメリカにとって、日本は戦略上とても重要な位置にある。
ソ連は目と鼻の先だし、中国や北朝鮮にも近い。太平洋の安全保障にとっても不可欠だ。
アメリカにしてみれば、日本は「共産主義からの防波堤」なんだ。
S:日本にとっては?
K:もちろん、日米安保への反対は根強い。
1960年と70年の条約改定時には、大きな反対運動が起きた。
特に沖縄は、2年前にアメリカから返還されたばかりで、基地が集中している。県民の負担も大きい。
S:なら、なぜ条約を破棄しないんだ。
K:いろいろだ。もちろんアメリカとの力関係もある。それに条約を破棄すれば、アメリカの核の傘からも抜け出すことになる。
米軍撤退後、自衛隊だけで国が守り切れるのか…俺には何とも言えん。
コスタリカが、米州共同防衛条約、いわゆるリオ協定を恃みにしているのと同じだ。
S:平和憲法を持つ国が、他国の軍隊を受け入れざるを得ない…皮肉なことだ。
K:一方で、アメリカにも不満はあるようだ。日本は、米軍による安全保障にただ乗りしていると。
最近日本の工業製品が、アメリカに進出しているだろう?
S:ああ。
K:軍備費を経済復興に振り向けた日本が、アメリカの市場でシェアを伸ばしている。面白くはないだろうな。
・「核の傘」
K:今日本は、アメリカの持つ核の傘の下にある…。
S:そうだな。
K:アメリカは、同盟国が核攻撃を受けたら、相手国を核攻撃する…そう宣言することで、同盟国への核攻撃を抑止する。
これが核の傘だ。
だが、実際にソ連が東京へ核を撃ったとして、アメリカは本当にモスクワへ核を撃つか?
モスクワに核を撃てば、確実にソ連はアメリカに報復するだろう。
ワシントンD.C.に核を落とされる危険を冒してまで、日本のために反撃するか?
…俺にはわからない。
S:どうした。今さら日本のことが気がかりか?
K:そう言うわけじゃないが…。
S:…正直、俺にもわからん。
だが、それはソ連にとっても同じ事だ。アメリカは日本のために報復しないかも知れん。だが報復するかも知れん。
K:それなら、ソ連は報復される危険を冒さないだろう…ということか。
S:そもそも核抑止自体が、仮定の上に成り立っている。所詮は幻想だ。
・「非核三原則」
K:「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」…これが、日本政府が示した「非核三原則」だ。
S:”持ち込ませず”…? 妙だな。日本に寄港する米軍艦の中には、核を積んでいるのもあるだろう。
それとも、いちいち海の上で積み替えているとでも言うのか?
K:あんたの言うとおりだ、スネーク。だが、少なくとも日本政府は認めていない。
核の持ち込みは事前協議の対象だ。アメリカ側から事前協議はない。従って、核は持ち込まれていない…それが答弁だ。
S:それは…答えになってんのか?
K:さあな。ただ、日本は核被爆国だ。核に対する拒否反応は、あんたが考えている以上に強い。
政府もなかなか認めるわけにいかないんだろう。
・「自衛隊」
S:カズ、お前がいた自衛隊は、軍隊とどう違うんだ?
K:自衛隊は、自国防衛のための組織だ。他国への侵攻を想定していない。いわゆる専守防衛だな。
S:専守防衛?
K:自衛隊の基本的な軍事戦略だ。先制攻撃を行わず、相手の攻撃を受けてから、最低限の防衛行動を取る。
S:それなら自衛権の範疇、というわけか。
K:もともと自衛隊は「警察予備隊」として始まったんだ。
その頃、朝鮮戦争のおかげで在日米軍が出払ってしまった。その穴を埋める意味もあったんだろう。
S:警察か…コスタリカの市民警備隊を思い出すな。
K:そうそう、災害救助に派遣されることもある。俺が入隊する前の年も、転落したバスの救助で大変だったらしい。
・「除隊の理由」
S:なぜ自衛隊を辞めた?
K:日本にいる理由がなくなったからだ。
S:理由?
K:3年前にお袋が死んで、面倒を見る必要がなくなった。なら何も、日本に燻っていることはない。
S:だがお前の腕なら、上官の期待も高かったんじゃないのか。
K:俺への評価がどうだったかはわからん。むしろ跳ねっ返りとして、疎んじられていたのかも知れん。
俺自身、専守防衛になじめなかったしな。
S:と言うと?
K:自衛隊の専守防衛は、国の戦略の形としては、”あり”なのかも知れん。それに従う同僚を悪く言うつもりはない。
だが戦術レベルで考えると、どうにも俺の性に合わなかった。
簡単に言えば、きちんと殴り合いをしたかったんだよ。
S:お前らしいな。
K:自衛隊にいる限り、親父のいた米軍と肩を並べることはできない、という思いもあった。
それに、三島由紀夫の自決を見たってのもある。
S:三島由紀夫…「金閣寺」を書いた?
K:三島の問いかけは、俺にとっても重かった。
彼の思想に傾倒しているわけではない。だが、考えるきっかけになったのは確かだ。
・「生い立ち」
K:1945年、3月10日。38万1300発のクラスター爆弾が東京に落とされた。
当時の日本家屋は木造がほとんどだったんだ。この日だけでも東京の3分の1が燃えて無くなった。
俺のお袋はこの空襲で家族と家を亡くした。それで横須賀の従姉を頼って引っ越したんだ。
B29はそれからも日本の主要都市を容赦なく焼き払った。
そして8月、ヒロシマとナガサキに原爆が落とされた。とうとう日本はアメリカに降伏した。
それから横須賀は、進駐軍のアメリカ兵で溢れかえった。
従姉はまだ10代も半ばだったお袋に、この町で生きていく方法を教えたんだ。アメリカ兵を相手にな。
そこでお袋は親父と知り合った。それで、俺が生まれたんだ。
親父はGHQのGSで、ホイットニー准将の元で働いていた将校だった。
マッカーサーの分身と言われた男の下だ。親父もそれなりの地位だったろう。
在日中、お袋を妻のように扱っていたというが、アメリカに戻ってから、もう連絡はなかった。
俺が生まれたのは親父がアメリカに戻った後だった。
お袋は一人で俺を育ててくれた。親父が残したはした金で店を開いて、進駐軍相手に煙草なんかを売っていた。
生活は人並み。だが俺には国籍がなかった。今は改正の動きもあるが、日本は父親がわからないと戸籍がとれないんだ。
だから俺は街のアメリカ兵を見ながら、自分に言い聞かせた。
俺は勝者アメリカの子なんだと。
髪も目も、痩せてうつむいた他の日本人とは違う。
いつかこの国を離れて、本当の祖国に帰るんだってね。
10才になったころ。お袋は身体を悪くして、俺はすっかり店番を任されるようになっていた。
そのとき店の引き出しの奥から、1枚だけ親父の写真を見つけたんだ。
俺は店に出入りするアメリカ人に親父の写真を見せた。
そうして何年か経ったが、あるアメリカ人が教えてくれた。
そいつはミラーだ、知ってるよ。
他の奴に訊いた。「ミラーはいま何処にいる?」。
「ミラーという将校の居場所を教えてくれないか」。
親父は退役して、バージニア州で兵士相手に講師をして暮らしていたそうだ。
教えてくれたのは親父の教え子だった。
俺は英語で手紙を書いた。「あんたの息子だ、アメリカに行きたい」。
毎日待って、待ち疲れた頃、郵便屋が未来を運んできた。
親父は金を送ってきた。俺は夢が叶ったと思った。
自分のことしか見えてなかった。
それで俺は、寝床を出ない母親に「行ってこいと」と言わせたんだ。
親父が手配させた真っ黒な車が俺を迎えに来た。いままで俺の髪の色を笑っていた近所の奴らが目を丸くして俺を見ていた。
お袋を病院に入れて、俺は一人でアメリカに渡った。
初めて会った親父は広い家に一人暮らしだった。
息子に…、アメリカの息子にベトナムで死なれたそうだ。
写真を見せられたよ。俺の兄貴だよな。
親父は離婚も重なって寂しくなったのか…、それで俺なんかに興味を持ったんだろう。
親父は講師をやめていた。背中を丸めて、あまり動かなかった。
だが、親父は俺にミラーという性と学費をくれた。
俺はその金で英語を習い、大学を出た。
アメリカは長引くベトナム戦争で疲れ切っていた。他所で戦争しながら、国内じゃ平和を叫んでいたよ。
卒業してすぐ、俺は一人で日本に戻った。親父はお袋に会うのを拒んだからな。
久しぶりに会ったお袋は俺のことを見もしなかった。初めは怒っているのかと思った。
だが違った。頭を菌でやられていたんだ。若い頃、無茶したせいだ。
お袋は俺が誰なのか、わからなくなっていた。
俺は自分の名前を言った。「お袋、カズヒラだ」って。
そのとき俺は、自分の声にはっとした。
”和平”。お袋が付けた名前、意味は日本語で”平和”。
俺は日本人だった。少なくとも、この小さな日本人の息子だったんだ。
お袋がこの名前を付けた理由が、思いが、このとき初めてわかった。
生まれた街と家族を焼かれ、身体も心も戦争に冒されたお袋は…。
かつての敵との間に、”平和”という名の子供を産もうとしたんだ。
日本は戦争に負けた。だが戦争という物差しに何の価値がある?
去年のオイルショックまで、戦後の日本経済は登り続けていた。もっと強い国になろうとしている。
俺は日本に残り、自衛隊に入った。22だった。
治療費と生活のため…といっても、いくらでも働き口はあったはずだ。
そこまで解っていて、それでも俺は、他に自分の道を思いつかなかった。
その2年後、治療費はいらなくなった。お袋が死んだんだ。
俺は自衛隊を辞めてまたアメリカに戻った。
親父は墓の中だった。自分で頭を撃ったらしい。
アメリカは日本に勝った。だが親父はアメリカに負けた。
アメリカンドリームは終わった。
俺は、あとは流れるまま、あんたも知っての通りだ。
…GHQはお袋のような女を作った。日本の平和憲法と自衛隊を作った。そしてこの俺を作った。
俺は戦争で生まれたんだ。だが戦争で死にたくない。
国家の事情で死ぬのも、貧しく生きるのも嫌だ。
戸籍や生まれで運命づけられるのも嫌だ。
ボス、あんたといると、そうはならない気がするんだ。
・「スネークとの出会い」
K:人生ってのは判らないもんだな。
S:いきなりなんの話だ。
K:戦場で敵同士として出会った俺とあんたが、今はこうして共に戦ってるってことがさ。
S:コロンビアでのことか。
K:ああ。自衛隊を飛び出してコロンビアに流れ着いた俺は、実戦経験も無いくせにいきなり、革命勢力の指導教官というポジションを得た。
S:スペイン語での営業トークは当時から得意だったとみえる。
K:茶化さないでくれよ。ツイてなかったのは、あんたが政府軍側に雇われていたことだ。
今でも忘れられない。あっという間だった。
あんた達の待ち伏せ攻撃で俺の部隊は瞬時に半数が倒され、アワを食った俺は頭の中が真っ白になっちまった。
お陰でその後の指揮はひどい有様、結局部隊は全滅…俺自身も仕掛け爆弾で瀕死の重傷を負った。
S:それから立ち去ろうとする俺に向かって、お前は叫んだんだったな…、「俺は自ら望んで日本からやってきた。戦場が俺の居場所だからだ」。
そして「自分でカタをつけたい」と俺に介錯を頼んだ。
日本にはサムライというものが今でも生き残ってるのかと、驚いたのを覚えている。
K:あんた達は俺に近づいてきた。その時俺は手榴弾を隠し持っていた。
だがそこでもあんたは素早かった。ピンを抜いた瞬間、あんたは両掌で、手榴弾を握る俺の手を包み込んだ。
S:起爆させたくなかったからな。自尊心を重んじると聞いていたサムライが、そんな汚いやり方で敵を道連れにしようとする理由を知りたかった。
K:俺は言った「俺は、俺たちは二度と負けない」と。
S:そうだ。「例えどんな手段を使おうと、決して負けない」、とな。
K:大量に失血していた俺は、そのまま気を失った。
次に気が付いたときは、あんたのキャンプの医務室で大量のチューブに繋がれていた。
なぜ、敵である俺を、あんたを殺ろうとした俺を、助けた?
S:あの時のお前は、プライドを捨ててまでも戦おうとした。
K:負け戦はごめんだからな…。
S:死の直前まで、あるいは死を覚悟してもなお、策略を練る。それが真の戦士だ。
損得や勝ち負けじゃない。俺はあの時、お前の生き様を見て、自分の道を見つけたんだ。戦士としてのな。
K:へえ、そいつは知らなかった。それで俺を…。
S:戦場は、ヒトを敵と味方とに選別するだけの装置ではないと悟った。
敵でも味方でもない、それ以上の仲間を、より分けてくれる事もある。
K:俺とあんたのようにか。
S:そうだ。あれからもう2年がたつ…。
・「携行品の重量」
K:武器や装備品は、必要なものだけを持っていってくれよ。
何でもかんでもバックパックに詰め込んだら、重すぎて動きが遅くなる。苦労するのはあんただからな。
S:わかってる。携行品は必要な分だけ。基本中の基本だ。
K:携行品の総重量は、出撃前に確認できる。参考にしてくれ。
S:了解だ。
・「照準ぶれ」
K:スネーク、あんたほどの戦士でも照準のぶれはあるだろう。
「気力」が充実している時はともかく、疲れてるとどうしても手ぶれが起きてしまう。特に大きい、重い武器だとな。
もちろん、立っているよりは、しゃがんだほうが狙いやすくはなる。
スコープで覗くような武器だと、一所に落ち着いていれば、段々と狙いが正確になっていくしな。
だがマザーベースで銃の開発を進めていけば、同系統でも照準ぶれの少ない銃ができるかも知れん。
照準ぶれが気になるようなら、そっちに力を入れるのも手だ。
S:覚えておこう。だが銃ってもんは、使っている内に手に馴染んでくる。あんまり浮気するのも考えものだ。
・「ミッションでの服装」
K:どのユニフォームを選ぶかは重要だ。ミッションの目的や、あんたの戦闘スタイルに応じて使い分けてくれ。
・「JUNGLEFATIGUES」
K:「JUNGLEFATIGUES」は、ジャングル用の野戦服だ。標準的な野戦服と言っていい。
こいつの特徴は、エリアによってカムフラ率に大きな差が出ることだ。
周囲に溶け込むようなパターンの服を着ていれば、カムフラ率は高くなる。
逆に周りから浮き上がってしまうと、見つかりやすい。
S:状況に応じた使い分けが必要ってわけだ。シギントにもよく説教された。
・「SNEAKINGSUIT」
K:スニーキングスーツは、潜入ミッションに特化した服だ。どのステージでも、高いカムフラ率を保てる。
足音がしないってのもデカい。
S:抜き足差し足で歩く必要がないってわけか。
K:傷を負った時の回復スピードも上がる。繊維が適度に体を圧迫して、止血効果があるらしい。
S:そいつはありがたい。
・「BATTLEDRESS」
K:バトルドレスは戦闘に特化した服だ。スニーキングスーツの逆だな。持って行ける武器や弾薬の数が多いし、防御力も高い。
潜入には向かないが、派手に行きたい時はこいつに頼るのもいいだろう。
S:さすがに重そうだな。
K:ああ。移動速度も遅くなるだろう。つまり潜入任務には向かない。気をつけてくれ。
・「NAKED」
K:「NAKED」…その名の通り裸だ。パンツはJUNGLEFATIGUESと共通だが。
生身の体を露出しているから、当然防御力もカムフラ率も低い。
ただ、身軽な分移動は速い。
S:見た目通り、肉体派ってわけだ。
K:なあ、スネーク。あんたの昔のコードネームは、この格好で暴れまわったことから来てるってのは、本当か?
S:デマに決まってるだろう。”NAKED”ってのは、武器装備、食料、すべてが現地調達だったことから付いたコードネームで…。
K:じゃ、上半身どころか、素っ裸でジャングルに放り込まれたってことか!? それも、高度10000mからのHALO降下で。さすが伝説のボス!!
S:…からかってるのか? カズ。
K:わかるか?
S:…一生そうやってろ。
K:裸になって何が悪い!
・「CO-OPS」
K:二人以上で協力して任務に当たることを共同作戦COrporativeOPerationS、略してCO-OPSと呼ぶ。
CO-OPSの基本はツーマンセルだ。
S:たった一人の味方であっても、敵地においては心強いもんだ。
K:実際、一人ではできない様々な行動が可能になる。
協力することで段差を越えたり、役割を分担したり…。
ただし、一人が発見されればもう一人も危険に身をさらすことになる。また狭い場所に二人が隠れきるのは難しいことかもしれない。
S:そうだな。だが、何より大切なのは仲間との絆だ。
K:そのとおりだ。ツーマンセルでの潜入は、二人のコンビネーション次第で有利にも不利にもなる。
ちなみに、目標のハッキリしている戦闘であれば、さらに大人数での作戦も有効になるだろう。
しかし、3人以上の部隊になると発見される危険も跳ね上がる。
S:ああ。潜入任務では人数が少ない方が動きやすい。
・「CO-OPリング」
K:CO-OPSでは武器や装備品の貸し借りも出来る。
仲間の持ち物も、自分の武器・装備品メニューから表示できるぞ。
当然ながら弾薬も共有だ。
S:それどころじゃない。LIFEゲージだって共有だ。
K:ああ。そのときは一蓮托生だ。相手の死はすなわち自分の死を意味する。
お互いの持ち物を受け渡しするにはある程度近くにいる必要がある。
S:わかっている。俺様ぐらい豊富な経験を積み重ねていれば、その間合いはハッキリと目に見えている。まるでリングのようにな。
K:さすがボス。それなら、うん、そのCO-OPリングに入ることをCO-OPインと呼ぼう。
・「スネークフォーメーション」
K:そう言えば、作戦行動中に一列で進むことをスネークフォーメーションって呼ぶよな。
あんたのコードネームと同じだが、単独潜入が得意なあんたにとって、いままであまりなじみがなかったはずだ。
S:ああ。蛇は一人でいい。
K:だがCO-OPSではこれも有効な隊形だ。相手の肩に手を置くのがスネークフォーメーションの合図になる。
S:まずは手が触れるぐらい近づかないことには、一列も何もないからな。
K:スネークフォーメーションになることをスネーク・インと呼ぼう。
スネーク・インしている間は、移動は前の兵士任せになる。
後ろの兵士はそのぶん索敵や攻撃に専念できるはずだ。
・「心臓マッサージ」
K:人間、心臓が止まってもすぐに死ぬわけじゃない。
S:心臓は全身に血液を送っているだけだからな。
だが心臓が止まると脳に酸素が運ばれなくなり、遠からず死に至る。
K:そこで心臓マッサージだ。
仮に心臓が止まったとしても、脳細胞が死滅する前に心臓マッサージを施せば生き返るってわけだ。
CO-OPSでLIFEゲージがゼロになると瀕死状態になったことを示す。こうなったらもう動くことも出来ないはずだ。
瀕死状態の仲間は心臓マッサージで戦線復帰させることが出来る。
もちろん戦闘中の心臓マッサージは危険を伴う。その間、自らを危険にさらすことになるからな。
とはいえ、CO-OPSの仲間は一心同体。一人だけ置いて行くなんてことは考えないでくれ。
S:もちろん、そのときはお互いさまだ。
K:作戦中、自分と仲間の全員が死んでしまえば、もう誰にも助けられない。
S:そこでおしまいってわけだな。
・「友情度」
K:CO-OPSの遂行にあたって、仲間との信頼関係は極めて重要だ。
S:当然だ。信用の置けない人間に背中を預ける気にはならん。
K:その目安となるのが「友情度」だ。CO-OPS相手との絆の強さを示す、と思ってもらっていい。
仲間と友好的な行動をすればするほど、その仲間との友情度が上がる。
S:例えば。
K:離れて戦うよりCO-OPインしたほうが、友情度は上がる。瀕死の仲間を心臓マッサージで蘇生してやっても、絆は深まる。
逆に仲間を誤射なんかして傷つけたりしたら、友情度は下がっちまうだろう。
S:そりゃそうだ。
K:友情度は、次に同じ相手とCO-OPSを実行した時にも維持されている。
ただ、その相手としばらくCO-OPSに参加しないまま、次々に新しい仲間とCO-OPSを実行していると、その相手との友情度は最初の状態に戻ってしまう。
注意してくれ。
S:了解だ。その時は改めて旧交を温めるとしよう。
K:スネークシンクロ時の効果は、友情度に左右される。友情度が高いに越したことはない。そうだろう?
・「スネークシンクロ」
K:スネーク・インした状態でじっとしていると、二人の鼓動がシンクロを始める。
S:鼓動?
K:ああ。それが完全に同期すると、スネークシンクロ状態に入る。仲間との相乗効果で、普段より大きな力を発揮できるんだ。
移動や回復が速くなり、カムフラ率も上がる。
S:要は二人の息が合った状態、ってことだな。
K:そうだ。ここ一番って時には、まず落ち着いてシンクロしてみるってのも手だ。
さっきも言ったが、スネークシンクロの効果は、相手との友情度に左右される。
S:そりゃそうだろう。気心の知れた奴と組んだほうが、お互いの死角をカバーし合える。その分自分の行動に集中できるってもんだ。
・「英雄度」
K:仲間同士の信頼関係を表すのが友情度なら、あんた個人の信望を表すのが「英雄度」だ。
S:「英雄度」だって?
K:そうだ。あんたの信望は、MSFの人集めにも影響する。
英雄度が高ければ、フルトン回収してきた敵兵だって、説得するのにさして時間はかからないだろう。
S:その「英雄度」っていうのはどうしたら上がるんだ?
K:いろいろだ。困難なミッションをこなす。無益な殺生を避ける…。逆に敵に見つかっておたおたしてるようじゃ、英雄度は上がらない。
それに、CO-OPSでの戦闘時、積極的に敵を攻撃すれば、それだけ仲間からの信望が厚くなる。だがその分、敵もあんたをマークするようになるだろう。
何、難しく考えることはない。ボスがいつもやってることだ。俺から見たって、あんたは十分に英雄だよ。
S:よしてくれ。
・「CO-OPS用武器」
K:研究開発班の連中、CO-OPS専用の武器を研究中らしい。
S:CO-OPS専用?
K:例えば、二人同時に撃たないと威力を発揮しない銃とか…その分攻撃力は高いと聞く。まだ構想の段階だそうだが。
S:ロケットランチャーを二人一組で運用することはあるが、CO-OPS専用とはな。
K:だが開発に成功すれば、CO-OPSのやりがいもあるってもんだろう。武器開発の様子も、気にしてやってくれ。
・「CO-OPS通信」
K:CO-OPS中は、仲間との綿密な意思疎通が重要になる。
S:無論だ。戦場での連絡途絶は、部隊の壊滅に直結する。
K:敵の位置。各種指示。救援要請。連絡を取り合わなければ、各個撃破されてしまう。
そこでCO-OPS通信だ。
S:CO-OPS通信…。
K:CO-OPS中の仲間同士でやり取りするための無線だ。
まずはSTARTボタンを押してメニューを開き、「CO-OPS通信」を選んでくれ。
その後、最初に押すボタンでカテゴリを、次に押すボタンで実際の言葉を選ぶ。
要するに二つのボタンの組み合わせで、何を喋るかが決まるってわけだ。
S:ほほう。
K:どのボタンに何の言葉を割り当てるかは、出撃準備中に設定できる。
S:慣れない内は、無線を送るまでに時間がかかりそうだ。
K:そんな時は、SELECTボタンにCO-OPS通信を割り当ててみてくれ。送信の手間が減るはずだ。
「OPTIONS」の「SELECTボタン」メニューで設定すればいい。
S:やってみよう。
・「言霊効果」
K:スネーク、日本に「言霊」って言葉があるのを知ってるか。
S:言霊…?
K:言葉には霊的な力が宿っていて、それが現実に影響を及ぼす…。
S:おいおい、大丈夫か?
K:言い方が眉唾っぽかったか。
だが、仲間からの励ましで予想外の力が出たことはないか?
逆に、心ない言葉のせいで、実力の半分も出せなかったり。
S:それならわかる。言葉が人のメンタルに与える影響は大きい。
K:CO-OPS通信でも同じだ。励ましの言葉を投げかけることで、いつもより速く走れるかも知れない。
瀕死で動けないはずの奴が、立ち上がれるかも知れない…そうだろ?
S:なるほど。逆もまた然り、か。
K:言葉の持つ力は様々だ。いろいろ試してみてくれ。
・「ダンボール」
K:スネーク、ダンボールについてだが…。
S:おお!
K:俺からあんたにダンボールの説明をするのは、ヘンな気がするが、念のために説明させてくれ。今までと違う点も多いからな。
S:わかった。
K:被って隠れるだけがダンボールの使い道じゃない。その場に置くこともできる。
S:ほう。
K:上に乗ればちょっとした段差を乗り越えることもできるし、陰に隠れて、敵兵の目から逃れることも可能だ。
S:嬉しい変化じゃないか。
K:それだけじゃない。アイテムを詰めて、CO-OPS相手に送ることだってできる。
S:そんな使い方も出来るのか? やはりダンボールは万能だな。戦士の必需品だ。その使い方は思いつかなかった。
K:いや、これが本来の使い方なんだが…。
S:そう言えば、このあたりのダンボールはちょっと大きめじゃないか?
K:ああ。密着すれば二人で被ることも出来るだろう。通称、ラブダンボールだ。
S:ラブダンボール…。
K:ああ。もっとも、ラブダンボールに限らず、同じ大きさなら二人で入れるがな。
・「ダンボールの中の二人」
K:ダンボールには二人まで入れる。CO-OPS相手と入れるってことだな。
S:どうやるんだ!?
K:仲間が入っているダンボールに、アイコンが出るまで近づくんだ。そこでアクションボタンを押せばいい。
アクションボタンを押している間は、外へ出ない。
S:スネークフォーメーションと同じだな。
K:ああ。スネーク・イン中にダンボールを被っても、そのまま二人とも同じダンボールに入ることが出来る。
S:信頼できる仲間とダンボールを被れる…いい時代になったもんだ。なあ、カズ。
K:あ、ああ。そうだな…。
・「ダンボール戦車」
K:スネーク、研究開発班のスタッフが、こんなものを開発したんだが…。
S:これは!?
K:ダンボール戦車だ。他のダンボールと同じ要領で、二人一緒に被ることができる。
前の奴が操縦士、後ろが砲手になって、弾も撃てるらしいんだが…。
S:おい、カズ。これを開発したのはどいつだ?
K:す、すまん、ボス。そいつも悪気があったわけじゃないんだ。まあいくらなんでもこれを戦車と見間違えるような…。
S:素晴らしい!!
K:は?
S:ステルス性と攻撃力の見事な融合。無骨なデザインもいい。完璧な設計とはこのことだ!
おい、カズ。こいつを作った奴のとこまで案内しろ。直接礼をいいたい。
K:ほ、本気か? スネーク。こりゃどう見たって…。
S:どう見たって名作だ。お前にはわからないのか?
K:ス、スネーク!?
P:わぁ、素敵な戦車ね。
K:パス!?
P:私戦車は嫌いだけど、これなら好きになれそう。排気ガスを出さないところがいいな。コスタリカの森を汚さなくても済むでしょ。
K:ええっ!?
S:カズ、よくやった。お前に副司令を任せて正解だった。
K:そ、そんな…。俺が…俺がおかしいのか!?
・「WALKMAN」
K:スネーク、ガルベスが持ち込んだカセットプレーヤーの件なんだが…。
S:どうした。
K:ありゃ東側の模倣品なんかじゃない。正真正銘、日本の企業が開発した試作品だ。
S:ほんとか!?
K:ああ。ソニーのロゴが刻んであった。モデル名はWALKMAN。
S:WALKMAN…。
K:歩きながらでも音楽を楽しめる、家から音楽を持ち出せる、ってのがコンセプトの画期的な製品だ。
俺も聴いてみたが、このサイズでは考えられない高音質だ。それもステレオ。掃討の技術がつぎ込まれてると思っていい。
例のテープにしてみてもそうだ。高音域の伸びが、既存のカセットとは明らかに違う。デザインもいいしな。
S:そんな発売前のモデルを、どうやってガルベスが手に入れたんだ。
K:わからん。お互い東側が興味を示すような分野でもないしな。
S:そりゃそうだ。だが、こいつはいいぞ。場所を選ばず、どこででも好きな音楽が聞ける。
K:あんたの口からそんな台詞を聞くとはな。だが、同感だ。
俺は生録派だから、再生専用の携帯機なんて、馬鹿馬鹿しいと思ってた。
だが、使ってみて印象が変わったよ。好きな音楽を持ち出せる…こいつは、音楽の革命になるかも知れん。
S:ああ。
K:マザーベースのスタッフにも、解析と研究を指示した。そのうち、改良型ができるかもな。
・「レトルトカレー」
K:喜べスネーク、レトルトカレーの開発に成功したぞ!
S:何だって!?
K:開発には苦労したよ。何しろ、米陸軍のレーションには真空パックのソーセージだけが使われてるって情報だけを頼りに作ったんだからな。
殺菌処理をする際の温度と圧力の調整が、特に難しかったそうだ。何度も試行錯誤を繰り返したらしい。
S:レトルトパウチは、宇宙食にも使われている技術だ。それを独自で開発するとはな。うちのスタッフもやるもんだ。
早速食べてみよう。今、封を…。
K:待ったスネーク!
S:何だ。
K:こいつは熱湯で温めてから食うんだ。
S:そうなのか。
K:3分間、待つのだぞ。
・「ボンカレー」
S:カズ、3分経ったぞ!
K:じっと我慢の子であった…。
S:いい匂いだ。
K:ん、イケる! こいつはイケるぞスネーク!
S:同感だ。こいつはいい。
K:野菜の甘みがルゥに溶け込んで…たまらん。まるで出来たてのようだ。
S:戦場で、こんなにうまいもんが食えるとはな。
K:よし決めた! こいつの名前は「ボンカレー」だ!
…ちなみに「BON」ってのは、フランス語で「良い」とか「おいしい」って意味だ。
S:何でフランス語なんだ。
K:いや…パリジェンヌに憧れが…。
S:好きにしろ。だが「ボンカレー」…悪くない響きだ。こいつはレーションの革命だな。
・「ドリトス」
K:トルティーヤは好きか、スネーク?
S:突然何の話だ?
K:トウモロコシの粉を使った、中米の代表的な料理のひとつだ。合衆国にいたころから俺の好きな食べ物だった。
S:いや、それは知ってるが。
K:あの香ばしい風味をいつでも楽しめたら…。そうは思わないか、スネーク?
S:ミッション中には無理だろう。保存も利かない。
K:諦めることはない。研究開発班が保存できるトルティーヤチップスを開発した。三角形に切ったトルティーヤを油で揚げたものだ。
俺たちはこれを「ドリトス」と呼ぶことにした。
S:ドリトス?
K:スペイン語で小さな金塊って意味だ。綺麗な黄金色に揚がったもんだからな。
・「マウンテンデュー」
K:ミッション中の飲み物には困ってないか?
S:ああ、大丈夫だ。マテ茶もある。
K:マテ茶か…。あれもいいが、炭酸なんかも飲みたくならないか?
S:そりゃそうだが、ミッション中に贅沢は言えない。タイムズスクウェアあたりで買い物してるわけじゃないんだ。
K:そう気を落とすな、スネーク。研究開発班が新しい炭酸飲料を開発してくれた。
その名も「マウンテンデュー」!
S:山のしずくマウンテンデュー。
K:ああ。大自然をイメージした柑橘風味の爽やかなドリンクだ。炭酸が強すぎないから、疲れた時でもゴクゴク飲める。
・「ペプシネックス」
K:スネーク、我が研究開発班が、また新しい炭酸飲料を開発してくれた。
S:いやいや、もういい。マテ茶もマウンテンデューも満喫している。十分だ。
K:そうか? だがこいつも相当イケるぞ。一度飲んだらもう手放せない。はっきり言うが俺は今も手放していない。
S:おい、マジメに…。
(カズが炭酸飲料を飲む)
カズ!
K:厚みがありながらキレのあるすっきりとした味わい…おいしすぎる。
S:…いくら美味くても飲み過ぎるとカロリーが…。
K:しかもゼロカロリー。
S:ゼロ…? 耳を疑うぞ!
K:この飲み応えでゼロカロリー!
耳を疑うのは飲んでからだ。他では替わりが利かなくなるぞ。
そう。やがて世界中のスタイリッシュな男女がこいつを手放せなくなる時代が来る。
憧れが憧れを生み、それはやがて全人類を巻き込む巨大な渦となるだろう。
スネーク、いや、ボス、あんたがその渦の中心となる。その時代を先取りしてくれ!
S:自分が作ったわけでもないのにずいぶん強気じゃないか…。…なんて名前だ。
K:ん?
S:その炭酸飲料の名前だ。
K:名前は…。
ペプシネックス。
S:ペプシ…ネックス…。
S&K:ペプシネックス!!
・「CIAの傭兵」
K:CIAが雇った敵の傭兵たちを、アマンダ達はいくつかのカテゴリーに分類しているそうだ。
S:教えてくれ、参考にしたい。
K:了解だ。順を追って説明する。
・「哨戒兵・警備兵」
K:もっとも頻繁に遭遇する敵兵は、作戦区域を巡回警備している連中だ。
アマンダ達は便宜上、野外を巡回している連中を「哨戒兵」、施設にいる方は「警備兵」と呼んでるそうだ。
のんびり歩いているように見えるが、そいつは見かけだけだ。決して侮るなよ。奴らは五感を研ぎ澄ましている。
普段は既定のルート上を巡回しているが、警戒レベルが高まると決まったポイントを重点防御して、効率的な警戒態勢を取る。こうなるとやっかいだ。
もちろん戦闘でも手強い相手だし、防弾着を着ているやつは倒すにも手間取る。
防弾ヘルメットを装着していたらもう、一撃必殺ってわけにもいかなくなる。気をつけてくれ。
偽装やルート選択に工夫が要る。奴らの探知を逃れることが第一だ。
・「やぐら兵」
K:場所にもよるが、敵は重層的な兵力配備を行っている。
屋根の上や遠くの地形から、長距離攻撃を仕掛けてくる敵も少なからずいる。
近くの敵に気を取られて、遠くからの攻撃に無防備にならないよう注意してくれ。
S:気をつけよう。
・「兵士のレベル」
K:哨戒兵やコマンド兵が装着している装備品、特に防弾着にはバリエーションがあることが判っている。
装備の重装化は敵の防御力と銃撃の精度上昇に正比例する、という観察報告もあがっている。
S:奴らの中でも戦闘スキルが高い兵士なんだろう。だから、重装備でも高いパフォーマンスのまま戦えるということだ。
K:装備の違いは一目でわかるそうだ。
重装備の敵兵には一層の注意が必要だ、忘れないでくれ。
・「武器と戦闘距離」
K:敵は装備している武器によって、こちらとの間合いを変えながら戦う。敵の装備を見極めることは勝敗に大きく影響する。
敵に遭遇したら装備をよく観察するんだ。
・「近距離」
K:ハンドガンやショットガンを持った敵は、かなり近くまで迫ってくる。危険は危険だが、反面こちらとしても狙いやすくはなる。
機転を利かせろ。不利を有利に転じるんだ。
・「中距離」
K:アサルトライフルやマシンガンを装備する敵は、やや距離を置いて銃撃を加えてくることが多い。
遮蔽物を上手く使って敵弾を防ぎながら、確実に命中弾を送り込め。
・「遠距離」
K:スナイパーライフルや、ロケット弾系の大型ランチャーを持つ敵は、自分から距離を詰めてくることはないと思っていい。
場所を転々と移動しながら、こちらの隙を突いて狙い撃ってくる。
目には目、歯には歯。スナイパーライフルを使うといいだろう。不用意に姿をさらさないように注意しながら、逆に相手の不意を突いてやるんだ。
・「国名の由来」
P:CostaRicaは”豊かな海岸”という意味よ。
S:コロンブスが名付け親って話は本当か?
P:どうかな。でも、大航海時代、コロンブスがリモン近くに漂着したのは本当。
その時、先住民から沢山金細工をもらったって、彼の日誌に書いてある。それが由来なのかも。
変な話。コスタリカでそんなに金が採れるわけでもないのに。
S:もともと、ジパングを探して航海に出た連中だ。金には目がなかったんだろう。
P:金なんかなくても、コスタリカは豊かな国よ。森や動物達、平和を愛する人々…私はそれを守りたい。
S:…ああ、そうだな。
・「内戦」
P:コスタリカは、中米で最も早くから、民主主義が根付いた国よ。
クーデターや独裁もあったけど、大混乱にまでは至らなかった。それが、26年前…。
S:内戦だな。君の祖父母もそれで亡くなったと。
P:大統領選に不正があったかどうかで揉めたのが原因だって。
どうしてそれだけのことで、仲間同士が争わなきゃいけないのかな。
話し合えば済むことなのに。
S:そう…できればよかったのにな。
P:今でも、内戦の時の弾痕が残っている建物がある。
四半世紀経っても、コスタリカ人にとっては忘れられない…いえ、忘れちゃいけない出来事なの。
軍隊が憲法で廃止されたのは、内戦の翌年よ。
・「政策転換」
P:今年選ばれたオドゥベル大統領は、アメリカと距離を置こうとしているみたい。
アメリカの銀行に与えられた特権を制限したり、キューバへの制裁をやめたり…。
前の大統領は、CIAとの癒着を疑われたくらいの親米家だったんだけど。
S:CIAが動いているのは、大統領の方針変更に危機感を持ったから…?
P:そうかも。でも、それだけであんな軍隊を持ち込むのかな…。
S:それを調べるのも俺たちの仕事だ。
P:うん。ありがとう、スネーク。ピース。
・「ガルベス教授」
P:ガルベス先生がKGBだったなんて…。
純粋にコスタリカの将来を心配して、私を手助けしてくれたと思ってたのに。
S:君は知らなかったのか?
P:本当よ! 信じて、スネーク。大学で平和の研究をしているって紹介されて、研究室も身分証もちゃんとあって…。
S:連中は、完璧なカバーストーリーを作って潜伏する。身分も、仕事も、時には家族でさえも用意するんだ。
君が騙されるのも無理はない。
P:スネークは知っていたの?
S:ああ。最初に奴と会った時から…。
P:教えてほしかった…。
S:すまない。君に伝えるべきか、わからなかった。余計なことに巻き込みたくもなかった。
P:でも、よくわかったのね? 一目見ただけなのに。
S:臭いだ。
P:臭い?
S:任務を与えられ、それに忠を尽くす人間独特の臭い…要は同類の臭いを嗅ぎ分けたというところだ。
P:スネーク、すごい。
S:いや、本当は…そうじゃない。奴の義手だ。大学で平和を教えるのに、暗殺用義手は必要ない。
P:…。
・「コスタリカコーヒー」
S:君達が持ってきてくれたコーヒー、うまかったよ。
P:でしょう? コスタリカのコーヒーは美味しいんだから。
中央盆地は、コーヒーの栽培に最適な条件が揃ってるの。
標高があって、気温の変化が少ない。土が火山性だから、水はけもいいし。
S:”教授”も随分御執心だった。
P:行きの船で飲んだコーヒーが美味しくなくて。先生、ずっとおかんむりだったのよ。
S:それにしては、コスタリカコーヒーって名前をあまり聞かないな。
P:業者に買い上げられた後は、他の国の豆と混ぜられちゃうみたいだから…。
せっかくいい豆が採れるのに、それがコスタリカのものってわかってもらえないのは、悔しいな。
S:ちゃんとアピールすればいい。
P:うん。将来、「コスタリカ・コーヒー」として、きちんと評価されるようになるといいな。
S:そうだな。
・「生物の多様性」
P:コスタリカには、およそ87000種の生物がいると言われているの。全世界にいる生物種の5%に当たるんだって。
S:この狭い国にか? そいつは大したもんだ。
P:私は、この生き物の多様性を守りたい。多様性が喪われた環境は弱いから。プランテーションを見ていればわかる。
S:それは俺もわかる気がする。似たような連中ばかりで部隊を編成すると、大抵うまく行かない。
多少はみ出しものが混じっているくらいが丁度いい。
P:これだけ種類がいるから、ちゃんと分類できていない生き物がまだいっぱいいる。
私はその分類のお手伝いをしてみたいって思ってるの。パラタクソノミスト、って言えばいいかな。
S:パラ…なんだって?
P:パラタクソノミスト。分類学者(タクソノミスト)の補助員(パラ)ってこと。
S:なんだ。パラシュートを使うのかと思った。
P:変なスネーク…。
・「名前の由来」
P:”Paz”っていう名前は、お母さんがつけてくれたの。
この国がこれからも平和でありますように、って願いが込められているんだって。中米にはよくある名前なの。
お母さんはよくそのことを聞かせてくれた。戦争はしちゃいけない。平和を守って行かなきゃって。
S:確か、君の祖父母は…。
P:そう、内戦で亡くなった。だからお母さんは余計、戦争が嫌いだったんだと思う。
S:そこも、カズと同じだな。「和平」って名前は、母親が付けてくれたそうだ。
P:そうか、日本も戦争を経験したんだもんね。ミラーさんのお母さんの気持ち、わかる気がする。
・「ピースサイン」
S:パスはピースサインが好きなのか。
P:うん。平和を愛する人たちの、合い言葉だもの。スネークもやってみて。セイ・ピース。
S:…遠慮しておく。俺には不似合いな言葉だ。
P:そう、残念。
S:そもそも、VサインのVは勝利のVだろう。いつから平和の意味になったんだ。
P:私も詳しくは知らないんだけど…ベトナムの反戦運動あたりからみたい。
そうだ。ピースサインは裏向きには出さないで。イギリスあたりだと、相手を侮辱することになってしまうらしいから。
・「生い立ち」
S:今は一人で暮らしているのか?
P:ううん。中等学校に入学してからは、学校の寄宿舎に入ってるの。
お母さんが死んでからは親戚の家に引き取られたんだけど…やっぱり、本当の家族じゃないから。
S:居心地が悪かったか?
P:そうね…。おばさんたちは私の前では優しかったけど…。
でも、急に子供を引き取ることになって、やっぱり困ってたんだと思うの。
一緒に暮らしてたら隠し事なんて出来ない。やっぱり私が迷惑をかけているというのはわかったから…。
S:苦労したようだな。
P:ううん。引き取ってくれる人がいただけで有り難かった。
私生児の中には母親が死んでストリートチルドレンになる子もいるし、内戦が多い国はもっとひどい。
この程度で不幸とは言えないわ。
S:君は強いんだな。
P:…ううん。強くなんてない。
・「マザーベースでの役割」
P:スネーク、一つお願いがあるの。
S:何だ。
P:私にも何か、マザーベースの仕事を手伝わせてほしい。みんなの役に立ちたい。
S:いいのか。あんなことがあった後だ。落ち着くまでは休んだほうがいい。
P:ありがとう。でも私なりに、自分ができることをやりたいの。
銃を持つのは無理かも知れないけど、料理なら得意よ。
S:頼もしいじゃないか。
P:糧食班に配属してくれれば、頑張れると思う。慣れてきたら、コスタリカ料理もレシピに加えたいな。
S:よろしく頼む。
・「歴史」
A:建国以来、祖国が自分達の意志で行く先を決められたことなど一度もない。
スペイン、アメリカ。もう100年以上も。
S:そうだな。
A:19世紀には、アメリカ人傭兵ウィリアム・ウォーカーが、ニカラグアの政権を乗っ取った。
S:政党間の対立をうまく利用したと。
A:ウォーカーが追放された後も、アメリカは海兵隊を送り込んでいる。これも、政党間の対立を抑えるためって名目で。
S:実際は。
A:政府に睨みを利かせて、ニカラグア運河の建設を邪魔するためよ。
・「ニカラグア運河」
S:アメリカはニカラグア運河の建設権を握ったと聞いたが。
A:アメリカはニカラグアに運河を造る気などなかった。もうパナマに運河を掘っていたからね。
ニカラグアに運河ができたら、パナマ運河の独占が崩れる。それだけのために、アメリカはニカラグアに横槍を入れ続けた。
S:運河を造らせないために、その建設権を手に入れたわけだ。
A:そのアメリカに反旗を翻したのが、サンディーノ将軍よ。
・「将軍の反旗」
A:サンディーノ将軍は海兵隊にゲリラ戦を挑み、ついには追い出した。
まさに英雄。あたし達FSLNの父と言っていい。
だけど、アメリカは手を引く代わりに、置き土産を残した。
S:国家警備隊だな。
A:そう。名目は治安維持だけど、実態は隊長ソモサの私兵だった。やりたい放題。
耐えかねたサンディーノ将軍は、抗議に行った…。
そしてその帰りに、ソモサに暗殺されたの。
それからよ、蛙(ソモサ)が祖国を食い物にし出したのは。
・「ソモサ」
A:蛙(ソモサ)一家がニカラグアを牛耳るようになってから、もう40年にもなる。
国家警備隊を使って、やりたい放題よ。
S:お前達も、国家警備隊に追われてここへ来たと。
A:ええ。奴らは何もかも奪った。土地も、家も、仕事も…。
S:ソモサのものか。
A:そう。法律もね。判事だって抱き込まれてる。逆らえば殺される。
みんな国家警備隊の顔色を窺って生きてる。それでも、連中の虫の居所が悪けりゃ殴られるけど。
S:それで国を変えようと?
A:それだけじゃない。ソモサは、その権力を使って私腹を肥やし続けてきた。
他人の土地を接収しては一族のものにして、今じゃ国の農地の半分近くが、ソモサ一家に。
どうすることも出来なかった。だけど。
2年前の地震は知ってる?
S:ああ。首都を直撃したと聞いた。
A:あたし達は首都マナグアを失った。世界中の人達が援助物資を送ってくれた。涙が出る程嬉しかった。
それなのに、ソモサはその援助のほとんどを着服した。地震で何もかも喪った人たちに、金を取って売りつけた!
あいつらは自分の国の不幸を食い物にしたんだ!
国民の怒りは頂点に達してる。奴らの命運も近いうちに尽きる。いえ、あたし達が終わらせてみせる。
・「サンディーノの暗殺」
A:初代のソモサはもともと、国家警備隊の長官に過ぎなかった。本来なら、大統領になれるような器じゃないのよ。
でも、当時の大統領には力の後ろ盾がなかった。奴に力で対抗できたのは、サンディーノ将軍だけ。
いえ違う。対抗しようと考えたのが将軍だけだったってだけ。彼は特別な人間じゃなかった。
正義を貫くには、なにより意志を持つことが大事。あたし達は、それを彼から学んだ。
S:だが、だからこそソモサは、サンディーノを暗殺した…。
A:ええ。後は簡単。大統領を追い出して、不正選挙で自分を選ばせた。そしてそのまま、権力を握り続けている。
S:強引だな。
A:ソモサのバックには、アメリカがいたからね。アメリカは、反抗的な将軍に政権を渡したくなかったから。
S:とは言え、そんな男をよくアメリカが承認したな。
A:当時のアメリカ大統領は「ソモサはろくでなしだが、我々の側のろくでなしだ」って言ったらしい。
反米政権よりはましってことね。それが犬でも蛙(ソモサ)でも。
・「マナグア地震」
A:マナグアの地震が起きたのは2年前。次の日はクリスマスイブだった。
街に何本も地割れが走った。寝ていた子供は、逃げることもできずに、崩れてきた家に押し潰された。サンタクロースが来る前に。
ソモサのせいで、古い家の建て替えもろくにできなかったから…悪夢よ。
S:直下型と聞いたが。
A:今でも断層の真上は危険で、家も建てられない。中心部は廃墟のままよ。
S:おまけに復興資金はソモサが着服、か。
A:亡くなった人たちのためにも、絶対に負けられない。必ずソモサを倒す。
・「FSLN」
A:あたし達はサンディニスタ。サンディーノ将軍の意志を継ぐものよ。
S:サンディーノ…近代ゲリラ戦の創始者だな。
A:あなたにとってはそうでしょうね。あたし達にとっては、父と言ってもいい人だけど。
S:だから、組織の名に使った?
A:ええ。FrenteSandinistadeLiberacionNacional…。
”サンディニスタ民族解放戦線”の名は、彼から取った。
あたし達の目的は将軍と同じ。自由な祖国を取り戻すこと。
彼の場合はアメリカから。あたし達の場合はソモサの独裁から。
S:時代は離れていても、思いは同じか。
A:「自由な祖国か死か」…それがあたし達のスローガン。
エル・チェも同じ事を言ってたでしょ?
S:「祖国か死か」…キューバ革命のスローガンだな。
すると君たちは、社会主義革命を目指している?
A:違う。主義とか、そんなんじゃない。ただ…。
当たり前に暮らしたいだけ。
道を歩いているだけで突然殴られたり、密告にびくびくしたり。そんな暮らしはもうたくさん。
祖国を国民に返す。それが目的よ。
S:そうだな。キューバ革命も、はじめはそうだった。
A:あたし達の仲間は、まだ多いとは言えない。でも、必ず勝つ。勝利か死か。革命家の宿命よ。
・「サンディーノ将軍」
A:アウグスト・セサル・サンディーノ…サンディーノ将軍は、ニカラグアの英雄よ。
50年前のニカラグアで、政党同士の内紛が起きた。それを収めるって名目で介入してきたのが、アメリカ海兵隊。
講和を迫る海兵隊に、唯一応じなかったのがサンディーノ将軍だったの。
S:アメリカ海兵隊相手に、大した度胸だ。
A:将軍はもともと軍人じゃなかった。彼の仲間もそう。もちろん装備は、海兵隊に及ばない。
だから彼は、地の利を駆使した。祖国の野山を駆け巡り、神出鬼没の戦法で海兵隊を翻弄した。
S:知っている。ゲリラ戦の教本にも出てきた。
A:その結果、海兵隊は撤退した。まさにあたし達の模範よ。
S:50年前と言えば、世界恐慌の影響もあったんじゃないか? 軍隊の駐留には金がかかる。
A:そうかもね。でも、将軍の功績は確かよ。
人々は歓喜した。彼は「自由な人々の将軍」と呼ばれ、愛された。けど…。
彼は暗殺された。国家警備隊長、アナスタシア・ソモサ・ガルシアにね。
S:今のソモサの親父だな。
A:ソモサの背後にも、アメリカがいた。そういうことよ。
将軍が殺されても、その意志はあたし達が受け継いでいる。時代が違ってもね。
あたし達は将軍の娘であり、息子なの。
・「スイカ売り」
S:最近、スイカの売れ行きはどうだ?
A:ぼちぼちね。国に残った仲間も、頑張ってるらしいから。
S:何よりだ。
A:…あたし達がスイカ売りって呼ばれてること、よく知ってるのね。
さすがはボス。
S:お前達は、国家警備隊の監視の目を潜り抜けるため、中身をくりぬいたスイカに武器を隠して運んだ。
それこそ手榴弾もな。それが周辺国のシンパに知られることになり…。
A:何それ。
S:えっ?
A:あたし達がスイカ売りって呼ばれるのは、将軍の名前(サンディーノ)がスイカ(サンディーア)に似てるからなんだけど。
S:…そうなのか?
A:そうよ。
S:カズのやつ…。
・「平和のための革命」
S:祖国の自由のための革命か。お互い平和とは縁遠いな。
A:不本意だけど仕方ないわ。無抵抗では搾取されるだけ。これまでの祖国の歴史がそれを証明してるの。
もちろん革命は手段であって目的じゃない。革命が成功したら平和な国にしたいとは思う。
けれど、平和をもたらすためにはまず売国奴を排除しなくちゃならない。
S「我々は平和に暮らすために戦争をする」――昔から言われている話だ。
A:誰の言葉?
S:アリストテレスだ。
A:詳しいのね。
S:ある人に教わった。
A:人間は昔から同じ事を繰り返してるってわけね。…それでも戦うしかない。
S:そうだな。目的があるなら、前に進むしかない。
・「エル・チェ」
S:お前達は、ゲバラのことを”エル・チェ”と呼ぶんだな。
A:あたし達だけじゃない。このあたりじゃ、みんなそう。もともと”チェ”があだ名だもの。姓で呼ぶのは堅苦しいでしょ。
…初めてあなたを見たときは驚いた。似ていたから。
S:”エル・チェ”に似ていた?
A:どことなくね。顔とかじゃなくて、雰囲気というか…。
S:FSLNでも、ゲバラは英雄なのか?
A:もちろん。もともとFSLNは、エル・チェやフィデルの思想に共鳴して結成されたんだから。
S:フィデル…フィデル・カストロか。キューバ革命を、ニカラグアでも実現させようってわけだな。
A:もともとはね。今はキューバのほうが、最初とは変わっちゃったけど…エル・チェがいなくなって以来。
エル・チェは真の革命家よ。民衆のために戦い、民衆のために死んだ。自ら誰よりも働き、道徳を守った。
キューバの大臣になってからも、休日返上で農作業や土木工事に出かけたのよ。それも、ボランティアで。
S:その話は、俺も聞いたことがある。だがその潔癖さが、ゲバラ自身を追い込んだとも言えないか?
A:どういうこと?
S:誰もが彼のような超人じゃない。だが、彼はキューバで掲げた理想がボリビアでも通じると考えた。
その結果、人材も農民の支持も集められず、彼は命を落とした。
A:それは…そうかも知れない。
でも、少なくとも彼は農民から奪わなかった。どんなに苦しくとも。
S:それは同感だ。革命を謳いながら、野盗同然に民衆から略奪するゲリラ連中も多い中でな。
A:彼のようなリーダーがいれば、FSLNの士気も上がるでしょうね。
・「オンブレ・ヌエボ」
S:あの巨大なヘリを、お前達は”オンブレ・ヌエボ”と呼んでいたが…。
A:ああ、”オンブレ・ヌエボ”は「新しい人間」という意味よ。
S:「新しい人間」?
A:あのヘリには、人が乗ってないの。多分、機械が動かしてる。
S:そうらしいな。だからこそ、あんな無茶な機動もできる。
A:でも、それにしては頭のいい動きをする。歌も歌う。
それを見て、隊の誰かが「新しい人間が乗ってる」って言い出してね。
あたしはその呼び方、気に入らないんだけど。
S:なぜ。
A:だって、「新しい人間」は、ゲバラが目指した姿じゃないの。FSLNに集うものの目標よ。
モラルと、自発的な労働に喜びを見いだす、「新しい人間」…その名をあんな化物にくれてやるのは、悔しくて。
S:違いない。
・「アプダクション」
S:チコはあのヘリをコリブリと呼んでいた。
A:こっちじゃハチドリのことをそう呼ぶの。あのヘリも動きが似てるでしょ、空中で静止したり。
S:大きさはえらい違いだが。
A:そうね。でも、オンブレ・ヌエボよりはいい名前だわ。
コリブリにさらわれたら、終わりよ。捕虜収容所に連れてかれて、仲間のことを吐くまで拷問される。
S:チコは、そいつにさらわれたのか…。
A:やつらの拷問は容赦がない。喋ったら喋ったで、ボロクズのように捨てられる…。
そうとわかっていながら、あたしはチコを救えなかった。救えないのなら、いっそこの手で…。
S:簡単にそんなことを言うな。名誉を失っても、生き延びなくてはならないことだってある。
大丈夫だ。チコは必ず俺が助け出す。
・「CIA側の兵力」
A:スネーク、あなたの意見を聞かせて。敵の傭兵、実力はどう。
S:練度は申し分ない。数も十二分だし、場慣れもしている。ベトナム帰りが多いんだろう、手強い相手だ。
装備も充実しているな。戦車や攻撃ヘリをあれだけの規模で運用している傭兵部隊はなかなか無い。
A:それだけ資金が潤沢、ってことね。それにあの手の大型兵器にアクセスできるコネクションもある。
S:天下のCIAがバックについてるんだ、当然だろう。
A:それに比べてあたし達ときたら半分農民半分学生、子供もいるかと思えば、武器にしたって敵から奪って数を揃えるていたらく。
悔しいけど、終始押され気味。
S:そうだな。
A:頼みの父さんまで失ってしまって……。
S:ああ、そうだな。
A:……勝てるのかしら、あたし達。
ねえスネーク、どう思う?
S:自信がないのか。
A:だって。
S:アマンダ。
A:なに。
S:いいか、仲間の前では決してそんな声を出すな。
A:…え。
S:お前はリーダーだ。リーダーは常に真っ直ぐに立っていなければならない。
たとえどんな苦悩を抱えていようが、不安や恐怖に押しつぶされそうになっていようがだ。
仲間や部下に盤石の安堵感を与える。それがリーダーのつとめだ。忘れるな。
A:…スネーク。
なぐさめが欲しければ教会へ行け。俺からこれ以上言うことはない。
A:そうね。ごめんなさい。あたし、しっかりしなくちゃね。
S:ああ。お前ならやれる。
A:ありがとう、スネーク。
・「プランテーション」
A:祖国の土地は、あたし達のものであって、あたし達のものではないの。
S:どういう事だ。
A:海沿いはバナナ園だらけ。山側はコーヒー畑ばかり。まあ、この辺もあまり変わらないけどね。
S:プランテーションだな。
A:採れたバナナやコーヒーのほとんどは、輸出に回される。代金は地主が独占して、農民にはわずかなお金しか残らない。
しかも、一番の大地主は蛙一族ときてる。
S:だが、外貨は稼げる。
A:バナナの場合は、それすら怪しい。バナナ園を持ってるのが、アメリカの会社だからね。
園内の工場でバナナを加工して、そのまま専用の港からアメリカへ輸出…。
海沿いにアメリカの飛び地があるみたいなものよ。
S:だが、農民はそこへ働きに行くしかない…。
A:馬鹿げてる。自分達の土地を取り戻さなきゃ。それもあたし達の目標の一つなの。
・「麻薬」
S:親父さんがKGBと手を組んだこと…いつから気づいてた?
A:半年程前よ。それまでは豆しか食べられなかったのが、急に卵や小麦が届けられるようになってね。弾も不足しなくなった。
S:麻薬は、どうやって手に入れてた。
A:KGBに聞いて。ここでやってたのは、コカインの精製だけだと思う。
このあたりでもコカの木は育つけど、原料のほとんどは、コロンビアやボリビアあたりから仕入れてたはず。
S:それを工場で加工して、カリブ海の港まで運んだ。その先は。
A:考えたことない…いえ、考えたくない。
S:世界最大のコカイン消費国は、アメリカだ。おそらく漁船に偽装して運んだりしてるんだろう。
A:ちょっと待って。CIAもそのルートを利用してるなら、CIAもアメリカに売ってるってこと?
S:そうなる。
A:連中は、祖国の若者をジャンキーにするために、せっせと麻薬を密輸してるの? どうしてそんな馬鹿げたことを!?
S:恐いんだろう。何よりも、中米に共産国ができることがな。
・「ウィリアム・ウォーカー」
A:CIAの連中の核兵器、ピースウォーカーっていうんだって?
S:ああ、そうだが。
A:ニカラグア人へのあてつけよ。
S:ウィリアム・ウォーカーのことか? 以前話していた。
A:ええ。もう百年以上前の話だけど。
当時のニカラグアは政党の対立が酷くてね。自由党は保守党に対抗するために、アメリカ人傭兵を呼んだの。
S:それが、ウィリアム・ウォーカーだった。
A:ところが、保守党を破ったウォーカーは、そのままニカラグアの権力を握ってしまう。最終的には大統領にまでなった。
S:自由党にしてみれば、庇を貸したつもりが母屋を取られたわけだ。
A:それどころじゃない。奴は英語を公用語にしただけじゃなく、奴隷制まで敷いた。
ウォーカーの狙いは、アメリカ南部を中心とした”環カリブ海帝国”を築くことだったのよ。
S:”環カリブ海帝国”…なるほど、コールドマンの狙いに近いかも知れん。
A:アメリカはいつだってそう。自分に都合のいいお題目を掲げて、我が物顔で人の国をのし歩く。
何が平和歩行計画よ。
S:結局、ウォーカーはどうなったんだ?
A:その後、コスタリカを中心に中米連合軍が結集されてね。彼らに打ち負かされて、アメリカに逃げ帰った。
S:なら、同じ事をやってやろうじゃないか。俺たちも、コールドマンの好きにさせる気はない。
A:そうね…頼りにしてる、ボス。
・「FSLNへ」
S:いつからFSLNに?
A:1年くらい前。父さんたちと一緒に、山に入った。
S:親父さんは、もとからFSLNじゃなかったのか。
A:違う。確かに父さんはサンディーノ将軍と一緒に戦ってたけど、一旦引退したの。
仕事に就いて、家庭を持って、あたし達も生まれた。でも、ある時FSLNの学生達が来て…。
S:昔の血が騒いだ?
A:そんなところね。とは言っても、国家警備隊に追われてた彼らを逃がしてあげただけ。
だけど、そこに警備隊の連中が来た。いきなり家に入ってきて、偉そうに父さんを尋問した。
S:親父さんはもちろん、喋らなかった。
A:こっぴどく殴られたけどね。家の中もめちゃめちゃ。それから連中に目をつけられて、何かにつけて嫌がらせを受けた。
それからよ、父さんがFSLNに身を投じるようになったのは。
それでもあたし達には隠してた。危険が及ばないようにって。
S:いい親父さんじゃないか。
A:ええ…でも、母さんが先に参っちゃって。家を出てった。無理もないけどね。
S:母親についていかなかったのか。
A:もちろん迷った。でもあたしは父さんのことを尊敬してたし、ソモサのやり方も許せなかった。それに…
S:チコか。
A:…あの子は父さんっ子だったからね。家に残るって聞かなくて。置いてくわけにもいかないし。
そのうち国家警備隊に追われて、山に入った…って感じ。半分は成り行きね。
S:その割には、堂々たる戦いっぷりだったぞ。
A:山は戦士を鍛えてくれる。訓練は厳しい分、新しい人間にしてくれるのよ。
S:やっぱり、大した姉ちゃんだ。司令官に推薦されるだけのことはある。
・「マラリア」
A:小さい頃、マラリアにかかったの。
運悪く、重いほうのマラリアでね。意識まで朦朧として、一時はもうダメだって言われたらしい。
S:マラリア脳症だな。熱帯熱マラリアだと起こりやすいと聞く。
A:今でも、時々記憶があやふやになることがある。
それ以来、蚊が恐くてね…。蚊の羽音が聞こえると、気が気じゃなくなる。
S:タバコを切らさないのも、そのためか。
A:ええ。少しでも蚊よけになればと思ってね。気休めかもしれないけど。あなたもそうでしょ?
S:少なくとも、蚊よりは葉巻の方が好きだ。
A:あたしもよ。
S:だが、大したものだ。その恐怖をものともせず、ゲリラとして野山を駆け巡っている。
A:よしてよ。エル・チェなんて、喘息に苦しみながら、革命を成功させたのよ。それに比べれば、大したことじゃない。
・「父親」
S:親父さん、残念だったな。
A:ありがと…。
父さんは、ずっとあたし達の部隊のリーダーだった。サンディーノ将軍の時代を知る最後の世代…。
父さんは少年兵として、将軍の活躍を見ていたそうよ。よく話を聞かされた…その後、将軍が暗殺された時のこともね。
S:親父さんがKGBから資金援助を受けていたことは、知ってたのか?
A:薄々はね…でも、父さんに問いただす勇気は、あたしにはなかった。父さんにとってもそれは、苦渋の決断だったんだと思う。
S:だろうな。
A:そう、父さんは立派な人だった。娘のあたしから見てもね。仲間からの信頼も厚かった。
父さんがいたから、苦しい中でも部隊がバラバラにならなかったのよ。
父さんの代わりが、あたしに務まるのかな…。
・「チコ」
S:チコは12歳なんだよな。
A:ええ。
S:それにしちゃ、ちょっと小さくないか?
A:栄養が足りないのよ。森を逃げ回ってると、食べ物もままならないから…。
S:食べ盛りなのにな。
A:わかってる!本当は、チコを連れ回りたくない。
でも、匿ってもらえる場所もないから、手元に置いておくしかないの。
S:自分を責めるな。安全な場所に離れているより、家族と一緒のほうが幸せだってこともある。
A:ありがと…。
S:その代わり、約束するんだ。戦いが終わったら、ちゃんと教育を受けさせろ。ゲリラ以外の仕事に就けるように。
戦いしか知らない男にしちゃいけない。まだ間に合う。
A:そうね。約束する。
…チコが大事にしてる本、知ってる?「世界のふしぎ生物百科」だって。ネッシーとかイェティとか…。
S:UMAってやつだな。
A:本当に子供なんだから…心配よ。
S:大丈夫だ。いい大人になっても、UMAが大好きな連中はいる。
A:そうなの??
・「マザーベースでの役割」
A:コリブリから助けてもらって以来、世話になりっぱなしね。あたしも何か手伝わないと。
S:怪我が治ってからでいい。
A:ありがと。でも、そうも言ってられないでしょ。
怪我が治り切るには時間がかかるかも知れないけど、身体が動くようになれば十分。実戦部隊でだって、役に立ってみせる。
S:さすがはFSLNの司令官だ。
A:よしてよ。でも実際、同志が頑張ってるのに、あたしだけぶらぶらしてるってのもね。
S:確かに、君が加わってくれれば、FSLN兵の士気も上がるかも知れんな。
A:もちろん、あたし達の目的は、ソモサ政権の打倒。でも、体勢を立て直すまでは、しっかりあなた達に協力するつもりよ。
S:ありがたい。よろしく頼む。
・「決意」
S:マザーベースには慣れたか。
A:ええ。山での暮らしに比べれば天国よ。国家警備隊や傭兵に追われなくて済むしね。
S:最近ここへ来た連中には、その傭兵出身の奴もいるが…。
A:大丈夫、うまくやってる。最初はいざこざもあったけど、話してみれば普通の人間だもの。
S:そうか。安心した。
A:そうよ…敵味方に分かれて戦ってても、相手はただの人間…CIAの傭兵も、国家警備隊も…そしてきっと、アメリカの民衆も。
S:どうした、急に。
A:父さんは革命の資金を稼ぐために、麻薬精製に手を出した。KGBに言われるままにね。
すべては祖国のため…そう思うようにして目を背けていた。
でも結局それは、アメリカの若者を薬漬けにする手助けをするってことだったんだ…そう気付いたの。
S:そうだな。
A:…決めた。ここを離れて革命に戻っても、もう麻薬精製には手を出さない。KGBにも頼らない。
KGBや麻薬の資金に頼ってソモサを倒したとしても、人々の心は離れてしまうはず。
エゴのために他人を不幸にする…それじゃソモサと同じだから。
S:親父さんとは違う道を進むってことか。
A:父さんのことは今でも尊敬してる。でも、あたしのやり方は違う。それだけ。
S:そうか。チコも喜ぶだろう。
A:チコだって一人前の戦士。顔向けできないことはしたくない。
S:よく言った、アマンダ。司令官の顔つきになってきたな。
A:よしてよ…最高の司令官がそばにいてくれたおかげよ、ボス。
S:む…。
A:ふふ…。
・「UFO写真」
C:スネーク、コリブリの写真を撮ったんだって?
S:ああ、これだ。
C:すごいや! ホントのUFOみたいだ! やっぱり、米軍は宇宙人と結託してたんだな。
S:確かに、見た目はそうだが…。
C:なあスネーク、これ、1枚焼き増ししてくれないか?
S:構わないが、どうするつもりだ?
C:こういう写真は高く売れるんだ。MSFの運営資金にもなるよ。
S:ははっ、そいつはいい。頑張って儲けてくれ。
C:信じてないな、スネーク。でも、俺に任せてくれよ!
・「アマンダ」
C:アマンダはうるさいんだよなぁ。後を付いてこいとか、自分から離れるなとか。
この間なんか、慌てて飯喰ってたら「ご飯はよく噛んで食べなさい」だぜ?
S:アマンダなら言いそうだ。
C:敵がいつ来るかわからないのに、のんびり飯なんか食ってられるか!
俺だって一人前のFSLNなんだ。女にそんなこと言われたくない!!
S:女だから、は関係ないだろう。お前の姉さんは頑張ってると思うぞ。亡くなった親父さんの跡を継いで。
C:わかってるよ、それは…アマンダのやつ、最近元気ないもんな。
仕方ないけど…俺がしっかりしなきゃ。
S:その意気だ。
・「父親」
S:親父さん、残念だったな。
C:仕方ないよ。ゲリラ戦士の宿命さ。国と民衆に命を捧げてるんだ…俺だって、覚悟はできてる。
S:どうだろうな。
C:当たり前だろ! 「祖国か死か」…親父の口癖さ。
S:ゲバラか。
C:親父はいろんな話をしてくれたよ。サンディーノ将軍の活躍、国家警備隊グアルディアとの戦い…。
それに、家を出てっちまった母さんのこともね。
S:母親に付いていかなかったのか。
C:何言ってんだよ。俺は母さんより革命を選んだ。それだけのことさ。
S:だが、会いたいだろう。
C:わかんない。でも、俺たちが革命をやり遂げたら、きっと会える。何となくそんな気がするんだ。
そしたらまた、父さんも母さんも一緒に、みんなで暮らせる。そう思ってたのにな。
父さん…。
S:しっかりしろチコ。お前が姉さんを守るんだろ。
C:うん…。
・「ゲバラの言葉」
C:そういえば、「よく狙え。おまえは一人の男を殺すのだ」って…。
S:ああ。あれもゲバラの言葉だ。
ボリビアで捕らえられたゲバラが、殺される直前、自らを撃とうとしている兵士に対して言ったと語り継がれている。
C:やっぱりエル・チェはすごいな。自分が殺されるときにそんなことを言えるなんて。
S:キューバ革命後、ゲバラは新政府での地位を投げ出して他国の革命に手を貸そうとした。いつでも死ぬ覚悟はできていたんだろう。
C:俺なんて、拷問されただけで…。
S:チコ、お前は新しい人間に生まれ変わったんだろ?
C:うん…。
・「隊の同志」
S:母親と離れて暮らして、寂しくなかったのか。
C:そうでもない。同志は家族みたいなもんだからね。同じ村の出身も多かったし。
S:保護者がいっぱいいたわけだ。
C:保護者ってなんだよ! 俺は一人前の戦士だぜ? 結束が堅いって言ってほしいな。
S:すまない、そうだった。
C:それが、あのコリブリのせいでばらばらに…みんな、今頃どうしてるかな。
なあ、スネーク。FSLNの捕虜を見かけたら、助けてやってほしいんだ。
俺たちの仲間は根性のあるやつばかりだ。きっとMSFの役にも立つぜ。
・「マザーベースでの役割」
C:なあスネーク、マザーベースの仕事、なんでも任せてくれよ!
S:無理しなくていい。
C:子供扱いするなよ。もう一人前なんだ。
S:じゃあ、何が得意なんだ?
C:えっと…それはその…何でもだよ! どの班に入れてくれても、頑張るさ。
S:ははは…まあ、若い分飲み込みは早いかも知れんな。考えておこう。
C:頼むぜ、ボス! 立派に戦えるところを見せてやるからさ。
・「恋の悩み」
C:はぁ…。
S:どうした、チコ? ため息なんてついて、お前らしくないな。
C:あ、スネーク。
S:悩みでもあるのか?
C:え? 別にそんなこと、ない…わけじゃない、かな?
なあ、スネーク…。
S:なんだ?
C:女の人って、変わってる。何考えてるか、よくわからないし、気ままだし。
やっぱ、男とはちがうのかな…。
S:…どうした突然。
チコ…。
好きな女性でもできたか?
C:そ、そんなんじゃないって! ただ…。
S:ただ、なんだ? 俺で良ければ話を聞くぞ。
C:…俺、パスと話そうとすると、なんだかドキドキしちゃって上手くしゃべれないんだ。
S:パスと? まあ、お前とは年齢も近いか。
C:スネークもそういうことってあったりした?
S:ああ。誰だってある。
C:どうすれば上手くしゃべれるかな?
S:…難しいな。意識せず、普段通りでいいんじゃないか?
C:それがうまく出来ないんだ。パスの前に出ると身体が硬くなっちゃう。
パスと目が合うと、なんだか顔が熱くなっちゃって…。
S:慣れるしかないな。戦場と同じだ。
最初は緊張するが、場数を踏めば自然と慣れる。頑張って話をするようにしてみろ。
C:う、うん…。
でも、女の子はUMAより謎に満ちてるよ…。
S:確かに。
・「パスの正体」
S:ZEKEが起動する前、パスがZEKEを壊そうとしているのを目撃したそうだな。
C:っ…。
俺が…。
俺が止めるべきだたんだ…。
あのとき俺が、逃げたりしなければ…。
乗り込む前なら拘束できたはずだ…。ZEKEに乗り込ませずに俺が止めれば、彼女は死なずに済んだ…。
S:パスは銃を持っていた。専門的な訓練も受けていただろう。
自分を責めるな。丸腰のお前には止められなかったはずだ。
C:でも、話だけでもしてたら…。
俺が誰にも言わないって約束してたら、パスはあんな行動に出なかったはずだ…。
なのに俺は、パスが工作員だったのがショックで、そのまま逃げてしまった…。
S:チコ…。お前が見たとき、パスは確かにZEKEを壊そうとしてたんだな?
C:え? うん。そうだよ…。
S:それで、その直後にZEKEを起動させ、俺を従わせようとした。
何かがおかしい。自分が使う予定だったZEKEをなぜ破壊しようとする?
C:え…?
S:工作員であるにしても、行動に一貫性がない。ZEKEを破壊したいなら破壊して逃げればいい。
逆に、ZEKEを奪って利用するのが目的なら、ZEKEを壊そうとする動機がない。
C:それは…わからないけど…。
S:チコに見られたことで方針を変えたのか? 解せないな…。
・「冷戦と平和」
H:しかし…冷戦とは文字どおりせんそうだったのか、あるいは平和だったのか…。
正直なところ、僕にはわからないよ。
S:博士…?
H:世間では冷たい戦争などと言われていた。でも僕は違うと思った。
確かに核兵器は増え、威力を増し、米ソは何10回でも人類を滅ぼせるほどの力を手にした。
だけど実際にそれで人が殺されたわけじゃない。もちろん小規模な紛争や、代理戦争のようなものはあったけど…。
核抑止によって世界規模の大戦は回避されて、それ以前に比べて圧倒的な平和が訪れたんだ。
それに、両陣営の競争によって宇宙開発が進んだのは素晴らしいことだ。そうは思わないか?
S:いや…。宇宙開発を急ぐ必要はなかった…。
宇宙に行くのは人類の夢だったかもしれない。だが無理な競争は犠牲を生んだ。
H:…そうかもしれない。宇宙開発機関は確かに全てを公表しているわけではない…。
S:核開発にしてもそうだ。核実験で民間人の死者や多くの被曝者が出ている。
H:その通りだ…。
そして今回の事件…。
僕が守ろうとしていた平和が一体なんなのか、だんだんわからなくなってきたよ…。
・「核抑止理論」
H:仮定の話と思って聞いてくれ。もしも、君のクローン人間を作るとして…。
S:クローン? パラメディックもそんなことを言ってたが、人間のクローンなんてSFの話だろう。
H:仮定だよ、だから。じゃあクローンじゃなくていい。君、子供は?
S:いない。
H:結婚は?
S:…そんなものに囚われたことはない。
H:じゃあこれも仮定だ。
君の遺伝子を引き継いだ息子がいたとしよう。その息子が君と全く同じ戦闘能力を持っていたら、君は戦いを挑むか?
S:…フム。うぬぼれで言うわけじゃないが、そいつとの戦闘は避けたい。命の保障がない。
H:だろうね、pupa5000の戦闘パターンをあっという間に出し抜いた君だ。
S:あれは博士のアドバイスがあったからだ。
H:聞いただけで出来るようになるなら、誰も苦労しない。
君はきっと生まれついての兵士なんだ。うーん、ソルジャー遺伝子とでもいうか、戦闘に適した遺伝子を持って生まれて来たんだろう。
S:…戦闘に適した遺伝子?
いくら研究が進んでるからって、何でも遺伝子のせいにするのはどうだ。
H:遺伝子のせいにする…おかしなことかい?
S:…なに?
H:僕の生まれつきの器質に遺伝子は全く関係ないとでもいうのか?
S:それはわからないが…。
H:…いいかい、同じ戦闘能力の相手に対して君が抱く恐れ。
…これを核戦略レベルまで押しひろげたのが、核抑止とよばれる概念だ。
致命的な破壊力を持つ核兵器を互いに整備することで、共倒れを避けようとして核戦争が回避される…という考え方だよ。
S:考え方としては、言っちゃ何だがありきたりだな。
H:その通り。シンプルな原則だ。
だがそのシンプルさ故、正しく機能するかどうかは扱う人間次第だ。
その意味で、今僕らは抑止論の機能不全を目前にしようとしているんだ。
S:コールドマン…。
H:そうだ。核抑止を死なせないでくれ。頼む、スネーク。
・「核テロリズム」
H:核抑止は、国家間紛争での核兵器使用を抑制する。しかし、それ以外ではどうだろう?
S:それ以外?
H:近年、世界的にテロが激しさを増している。分離独立運動から極左破壊活動に至るまでね。
もし核兵器が、そんなテロリストの手に落ちたらどうなるだろうか?
国家ではない、つまり決まった土地を持たない彼らが核攻撃を受ける可能性は低い。すなわち核攻撃を恐れる理由がない。
ということは逆に、敵対する国家組織への核攻撃をためらう理由もない。
S:テログループ相手じゃいくらICBMや戦略爆撃機を揃えても使いどころがないのは確かだ。
H:だろう? もちろん今はまだ仮定の話だ。
核兵器は厳重に管理されているから、そうそうテロ組織に流出したりはしない。
だがいつか「核テロリズム」という命題が核抑止論を死文化させる時代がくるだろう。
S:核テロリズム…なるほどな。
・「メタルギアへの核搭載」
S:メタルギアへの核搭載…よく協力してくれたな。
H:今さらどうしたんだ。
S:もちろん、こちらとしては助かるが…いいのか?
MSF自衛のためとは言え、核兵器であることに違いはない。
本質的には、ピースウォーカーと同じなんだ、おまえが嫌っていた。
H:…そこだよ。
S:そこ?
H:君は隠し立てせずに、事実を言う。そこが、CIAの連中とは違うところさ。
最初は猫なで声で近づいて、いざとなれば手のひらを返すような連中とはね。
S:…本当の事を言っているだけだ。
H:そんな君なら、馬鹿な使い方はしないだろう…そう思えるんだよ。
有り体に言えば、君を信じてるってことさ。
S:買いかぶりすぎだ。
H:そうかい? それに、二足歩行の技術は、兵器開発のためだけにあるわけじゃない。
小型化できれば、ロボットや義足にも応用が利く。そうなれば、僕も自由に歩けるようになる。
S:ああ、そうだな。
H:僕は自分の力で、自分の運命に打ち克ちたいんだ。
そのために、君の力を利用させてもらう…と言ったら、怒るかい?
S:いや、健全な取引だ。
H:ありがとう。
もちろん、人は変わるものさ…でも、僕は信じているよ。
スネーク、君が今のままの君であることをね。
・「NORADへの情報伝達」
H:スネーク、君は合衆国の本土防空網についてどの位知ってる?
S:雲の上のことはそれほど詳しくない。NORADのレーダーがサンタを追尾していることくらいだな。
H:ほう、君でも冗談言うんだな。
S:ん、いや冗談じゃ…。
本当だ、NORADはサンタを…。
毎年、年末にはホットラインが…。
H:判った、判ったよ。
S:…まさか。
いないのか? サンタ。
・「今回の反省点」
H:さて、スネークボーイ。君も知っての通り、NORADにはサンタクロース追跡という重大な任務が課されている。
S:はぁ…。
H:だが彼らにはその他に、本来の、創設以来の任務がある。
その為の機構が…今回コールドマンに利用された。
S:…ピースウォーカーからの偽装データ送信のことか?
H:NORADの早期警戒システムはDSP衛星に搭載された赤外線センサーと、北米大陸の各地に設置された監視レーダー群から構成されている。
警戒網から発されるワーニングはNORADへ送られ、人間による情報評価が行われる。
一方ピースウォーカーは自律的に報復行動を決断しなければならない。
そこでNORADと同じ情報が秘匿回線を通じて自動的に供給される仕組みになっている。
その回線は、実験機のAIが下す報復判断を遠隔測定する目的にも使われていた。
ピースウォーカーはこの仕組みを逆用して、演習スケジュールには無いタイミングで核ミサイル来襲の偽情報をNORADに送り込んだんだ。
システムの脆弱性対策に問題があったといわれれば反論の余地はない。
でもAIにクラッキングさせるなんて全くの想定外だったからね。結果はご存じの通りだ。
・「電子タバコ」
S:博士、あんたが研究室で吸っていたのはなんだ? 煙草のようだが火を使ってなかったな。
H:ああ、あれは僕が作った電気式の煙草だ。電子タバコとでもいうのかな。
S:電子タバコ?
H:そう。フィルタの中の液体を微粒子にして、その微粒子を吸っていたんだ。
S:あれは霧だったのか。
H:本当は普通の煙草を吸いたいんだけどあの部屋じゃね…。
煙草の煙は精密機器にとって毒なんだ。回路の接触を邪魔したりするんだよ。
でもあの霧ならただの水蒸気だから、タールのような物質を含まない。
研究室で吸っても安心ってわけ。
S:へえ。
H:試してみる?
S:いや、俺は葉巻でいい。
H:でも…。
S:代用品でごまかすのは好きじゃない。
H:そう。でも喫煙は遅かれ早かれ世界的に非難されるようになる。自分にも他人にも害があるからね。
電子タバコも悪くないと思うよ。
S:ああ、その時になったら考えよう。
・「遺伝的影響」
S:親父さん、マンハッタン計画に参加したって言ってたな。
H:ああ。
S:自分が歩けないのは、その影響だと?
H:…どうかな。いや、おそらくは違うんだろう。
今のところ、親が放射線被曝していたからと言って、その子供に遺伝的な影響が出るという証拠は、見つかっていない。
胎内被曝した場合は別として…疫学的にはね。
S:それはABCCのデータ?
H:ああ。ABCCは戦後まもなく、被爆者の調査を始めた。そして、それは今でも続いている。
S:30年経った今でも…。
H:放射線の影響は長期間続く。遺伝的影響の調査にしたって、一応の結論が出るまで、あと10年はかかるだろうね。
確かにかつてない、大規模な調査だよ。
だけど、本当に調査だけ。ABCCは被爆者を呼んでは検査をしたけど、治療はしなかったんだ。
S:そうか…彼らも…。
H:いずれにしても、僕は子供の頃から信じ込まされてきたんだ、父に…。
S:親父さんなりに、説明に苦しんだ末なんじゃないのか。
H:そうかも知れない。でもねスネーク。
これはもう僕自身の問題なんだ。僕はこの核という存在と向き合っていくしかない。好む好まざるにかかわらず。
そしてその成果が、間違った方向に使われようとしている。何としてでも阻止したい。協力してくれ、スネーク。
・「マザーベースでの役割」
H:せっかくマザーベースへ来たんだ。ぜひ僕を研究開発部門に配属してくれ。役に立てると思う。
S:ありがたい。カズも喜ぶだろう。
H:資材や設計図の準備が整えば、二足歩行兵器の開発も始められるはずだ。
僕の研究が、ピースウォーカーの阻止に少しでも役立つなら、こんなに嬉しいことはない。
・「2001年宇宙の旅」
H:「2001年宇宙の旅」という映画を知っているかい?
S:いや、知らないな。
H:あれはいい映画だよ…宇宙のSFXもすごいけど、AIの描写も出色だった。
S:AIが?
H:ああ。HALって言うんだ。宇宙船を制御するAIだよ。物語上でも重要な役割を果たすんだ。
ストレンジラブもこの映画が好きでね。彼女とコスタリカで再会した時の話はしたかな?
S:いや。
H:彼女は男嫌いだろ? NASA以来の再会だって言うのに、全然話が弾まなかったんだけど…HALの話をしたら、急に雄弁になってね。
その語り口が、実に知的だったんだ。あの難解な映画への解釈、洞察、そしてAIについて語る熱意…。
僕はまたもメロメロさ。
S:ああ。
H:彼女と僕とを橋渡ししてくれたHALに乾杯! ってとこだね。
君も彼女と「2001年」について話してみるといい。きっとわかると思うよ、彼女の素晴らしさが。
S:素晴らしさね…。
H:HALっていい名前だよね…。
・「鳴き真似」
S:さっき言ってた猿の鳴き真似だが…。
CE:聞きたい?
S:いや、気になって、聞いておかないと座りが悪くてな。
CE:それじゃ、いくわよ。
(猿の鳴き真似)
S:上手いもんだ。
CE:他にはね、羊とか、豚とか…。
S:羊と豚?
(羊の鳴き真似)
おおっ。豚は?
(豚の鳴き真似)
S:そっくりだ!
CE:そう? あとはねえ、ゴリラなんかもあるんだから!
S:ゴリラ? ゴリラ鳴くのか?
(ゴリラの鳴き真似)
S:ほう!
CE:それからね、ウサギの真似なんかも…。
S:ウサギ? ウサギ鳴くのか!?
CE:ええ。でも、すごく小さな声だから、飼ったことがないとあまりわからないかも。
S:へえ。あ、そうか。どんな鳴き声なんだ?
CE:それじゃ、耳を澄ませて。
S:ああ。
(ウサギの鳴き真似?)
S:なんだ、それは? ウサギはそんな声で鳴くのか!?
CE:本当よ、本当にこう鳴くんだから! いい?
(再度ウサギの鳴き真似?)
S:聞いたことがないな…。
CE:本当なの!
・「セシール・コジマ・カミナンデス」
S:「コジマ」とは初めて聞く名前だ。もっとも、フランス人の知り合い自体が少ないが。よくある名前なのか?
CE:あまり多くはないわね。
でも、ワーグナーの2番目の奥さんは、コジマ・フランチェスカ・ガエターナ・ワーグナーって名前よ。
S:ほう。
K:日本にも「小島」って苗字は多いぞ。
S:カズ!?
K:いやぁ、奇遇だなあ。君がこんなオリエンタルな名前だなんて。運命を感じる。
CE:いや……ははは、そう?
K:そうだとも! ほぼそうだ。いい名前だよ。セシール・コジマ・カミナンデス。
…ん?
セシール・コジマ・カミナンデス…コジマ・カミナンデス…。
「小島、神なんです」!?
CE:ミラーさん?
K:なんてこった。神というのは、英語のゴッドにあたる日本語だ。
「なんです」というのは説明が難しいが…神なんです…「カミナンデス」であれば「イズ・ゴッド」に近い。
S:ということは…。
K:ああ。「コジマ・カミナンデス」は「コジマ・イズ・ゴッド」を意味する…。
「コジマ・イズ・ゴッド」!「コジマ・イズ・ゴッド」!「コジマ・イズ・ゴッド」! エヴリバディセイ!
CE:「コジマ・イズ・ゴッド」!「コジマ・イズ・ゴッド」!
S:…カズ?
・「マザーベースでの役割」
S:マザーベースの居心地はどうだ?
CE:最高ね!
S:そりゃあよかった。君みたいな文化人に、こんな無骨なプラントは合わないかと思ったが。
CE:だって! アホウドリにグンカンドリ、アジサシにネッタイチョウ…。
フランスじゃ見られない海鳥がいっぱいだもの!
S:…そりゃあ、よかった。
CE:でも、毎日鳥を追いかけてばかりじゃ悪いし…私も何かお手伝いしたいな。
S:それはありがたいな。だが、何を頼んだら…。
CE:まあ、鉄砲を撃ったりはしたことないけど…。
S:セシール、森での振る舞いはどこで覚えた? 鳥が全く警戒していなかった。
CE:森とひとつになるのはバードウォッチャーの基本よ。人間の気配を感じると鳥にも異変が生じる。それじゃ正確な観察は出来ないもの。
S:なるほど…スカウトに通じるものがある。
CE:それから遠くの鳥を見つけたり、自然の中で周囲の気配を察したり、些細な痕跡から追跡するのは得意よ。
S:ますますスカウトに近い。
CE:鳥と同じ気持ちにならないと、鳥は見つけられないから。お役に立てそう?
S:ああ。
・「パリ」
S:ここに来る前は、ずっとパリだったのか?
CE:ええ。パリは私の大好きな街なの。
最先端のモード、世界最高の食事、優れた感性の人々が集う、文化と芸術の都。
夜のシャンゼリゼ通りの美しさは、現実とは思えないほどよ。
シャンゼリゼっていうのは、ギリシャ神話に出てくる楽園、つまり天国なの。
S:俺には縁のなさそうな話だ。
CE:文化的な生活に興味はないの?
S:縁がなかったというだけだ。興味を持ったこともないが。
CE:戦争が好きなの?
S:そんなことはない。だが、天国の外、アウター・ヘブンのほうが性に合う。
CE:ハードな生き方ね…。
…でも、いつかフランスに来ることがあれば、パリの街を案内してあげる。
この世の天国、ヘブンを教えてあげるわ。
・「外人部隊」
S:この世の天国か…。フランスには外人部隊というイメージしかないな。
CE:か、偏ってるわね…。
S:フランス国民は外人部隊をどう思っているんだ?
CE:どうと言われても…。普段そんなに意識することもないし。
S:国民が犠牲にならないよう外国人に危険な任務を押しつけているという批判もあるが。
CE:確かに設立の経緯としてはそういった事情もあったでしょうね…。
でも、勤務を続ければフランス国籍と居住権が得られるって聞いた。
入隊すれば、国籍、出身、人種、宗教、学歴など問わずに等しいチャンスが与えられる。
だから貧しい国の人たちにとって大きな救いでもあるわ。
S:持たざる者達が生きていく手段か。ある意味、MSFに近い存在なのかもしれないな。
・「国歌」
S:フランスと言えば国歌も印象的だ。
CE:ラ・マルセイェーズね。批判があることは知ってるけど。
S:「市民よ武器を取れ、敵の汚れた血で田畑を染め上げろ」だからな。
CE:あの曲が作られたのはフランス革命のすぐ後だったの。
周囲の国は革命の波が君主制を脅かすのを怖れたのね。それでフランスの新革命政府にいろいろ圧力をかけてきた。
それに対し、立憲政治を守ろうとした義勇兵達の歌がラ・マルセイェーズなの。
S:武力がなければ立憲政治を守ることはできなかった。
CE:ええ。好戦的すぎる部分も確かにあるけど、彼らのおかげで今の民主的なフランスがあることは忘れちゃいけないって思う。
・「シェルブールの雨傘」
CE:「シェルブールの雨傘」は観た?
S:映画か? いや、知らないな。
CE:知らないの? 10年前の映画だけど主演のカトリーヌ・ドヌーヴが本当に素敵だった! それにあの歌! 衣装! 色! もー!
S:そうか。
CE:部隊はシェルブールの軍港。
S:ノルマンディで上陸拠点となった港だな。
CE:若い男の人たちが徴兵されて、アルジェリアの戦争に行ってた頃のお話なの。
S:フランス政府は戦争ではなく「北アフリカにおける秩序維持作戦」と言い張っているが。
CE:私はまだ子供だったんだけど、知り合いのおにいさんが出征したこととか、何となく覚えてる。
S:フランスは兵役義務があるからな。
CE:その戦争が、愛し合う若い二人を引き裂くの。
ジャック・ドゥミ監督の歌詞とミシェル・ルグランの音楽が胸に、胸に突き刺さった。今でもあのメロディが頭から離れないの!
ああ…。
S:大丈夫か。
CE:人生を、運命を変えてしまう。戦争は良くないわ。
S:ああ。君のような女性が言うとなんだか胸に滲みる。
・「ジャッカルの日」
S:アルジェリアの独立戦争と言えば、「ジャッカルの日」は知ってるか?
CE:去年映画になった小説でしょ?
OASがド・ゴール大統領暗殺を企て、ジャッカルという狙撃手を雇う…。
現実を知っているはずなのに、私ドキドキしちゃった。
私ももし誰かに狙撃されるんだったら、あんなふうにじっくりと、下調べされたい。
私が知らないうちに何もかも知りつくされたい。
S:そうか?
CE:もしかしたら私が見ている鳥たちも、そんな風に感じているのかも…。
S:どうだろうな。
CE:キョーッ、キョーッ…。
S:おい、セシール?
CE:ケツァールの気持ちよ。
・「核実験」
CE:フランスが初めての核実験に成功したのは1960年、アルジェリアのサハラ砂漠で。
S:フランスの科学者はマンハッタン計画にも大勢参加していた。第二次大戦中、国を追われてアメリカに亡命してきたらしい。
CE:そう、その人たちが戦後、本国に戻って核開発を始めた。
アメリカの核の傘をあてにしなくていいように、ド・ゴール大統領は積極的だった。
S:そしてフランスは第4の核保有国となった…。
CE:…核実験の成功がアルジェリアの反乱軍を鎮静化させたとも言われている。内戦は確かに食い止められた。
だけど私は、核があるから平和だなんて思ったことはない。
・「サルトル」
CE:フランスは哲学者もたくさん産んでる。デカルト、バタイユ、サルトル、ポードリヤール…。
S:サルトルなら、俺も知ってる。
「チェ・ゲバラは20世紀で最も完璧な人間だ」って言った男だろう? 見る目がある。
CE:サルトルは…。(動物の鳴き真似)
S:びっくりした!
CE:じゃないわよ。
サルトルは左翼のシンパだったものね。他にサルトルについては?
S:…知らん。
CE:何にも?
S:…ああ。
CE:もう、実存主義(エグジスタンシアリスム)の大家なのに…。
S:出口主義(エグジッタンシアリスム)か。それは拝聴したいな。退路を確保せずに潜入する程危険なことは…。
CE:違うわよ。実存主義。なんで英語が混ざってるの?
S:…すまんが、哲学には興味がなくてな。
CE:そう? 人生を豊かにしてくれると思うけど。
S:人間かくあるべしとか、人間の本質とはなんぞやとか…そんなこと考えるより先に、行動に移した方が早い。
そうやって生きてきた結果が、俺自身なんだからな。
CE:あら? それってサルトルが言ってることと似てる。
S:そうなのか?
CE:ええ。人には生まれながらの本質はない。自分とは自分自身が自由に創り上げるものだって。
S:自由に? お気楽な言い方だな。
CE:そうじゃないの。自由故に、自分自身に責任を持たなくてはならないって意味。
「人間は自由という刑を宣告されている」…サルトルの言葉よ。
S:「自由という刑」か…。
CE:でも、他人の眼差しは、あなたをあなたという存在に固定しようとする。
S:そいつは最近、痛感してる。俺が「スネークと呼べ」と言っても、聞きやしない。
CE:「地獄、それは他人」…これもサルトルの言葉よ。
S:地獄か…まあ、ここは天国の外だからな。
・「ピカソ」
CE:スネーク、絵画に興味は?
S:さあな。あまり期待しないでくれ。
CE:ピカソくらい知っているでしょ?
S:ああ、名前はな。
CE:去年のことよ、キュビスムの創始者、”わが”! エッヘン!
フランスが誇る芸術家こと、ムッシュ・ピカソが…残念なことに息を引き取ったの、南仏でね。
S:ん? たしか彼はスペイン人…。
CE:ね、フルネーム知ってる?
S:パブロ・ピカソだ。名前からも判る、彼はスペインの…。
CE:はン。あなた絵画にかけては凡人ね。
S:どういう意味だ。
CE:よく聞きなさい。
”パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン…
…クリスピアノ・デ・ラ・サンテシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ”
…どう? 彼のフルネームはこれよ。
S:いや、そう言われても…。
CE:現代美術の巨匠よ? 生涯の大半をフランスで活動して、10万点を超える作品を創作した偉人よ?
教養としてそらんじていて当然だわ。
S:あまり使いどころ無さそうだが…。まあそれはいいとして、ピカソはスペイン人だろう、違うか。
フランス人じゃない。だな?
セシール?
CE:それがどうしたっていうの? スペイン人でも火星人でもいいじゃない、ピカソはピカソよ。
フランスで活躍した事実は変わらないし、作品の価値が損なわれることだってこれっぽっちもない!
国籍にこだわるなんて、あなた小さいわ。「国境のない軍隊」の名が泣くんじゃない?
S:だったら別に「わがフランス」が誇らなくたっていいんじゃ…。
CE:何か言った!?
S:何も。
・「マカロン」
CE:ねえ、スネーク、レーションにお菓子を入れたりはしないの?
S:考えたこともないな。なんでだ?
CE:お菓子大好きなの! フランスのお菓子は、そりゃあ美味しいんだから。
クレープでしょ、シュークリームにエクレア、マドレーヌにフィナンシェ…。
それとタルト・タタン。サヴァランも外せないな。ミルフィーユ、クレープ、ブラン・マンジェ…。
S:クレープ、2回目だ。
CE:スフレ、クロカンブッシュ、カヌレ、フロランタン、クイニーアマン、ペーシュ・メルバ……。
S:終わったか?
CE:……それにマカロン! 私、マカロンが一番好きなの。
それもやっぱりマカロン・パリジャンが最高ね。カラフルで見た目も可愛いし、メレンゲを使ってるからとっても口溶けがいいの。
S:意外だな。マカロンがフランスでもそんなに人気だったとは。
CE:フランスでも…?
S:ああ。マカロン…ココナッツ味のクッキーだろ?
CE:違うわよ! マカロンに入ってるのはアーモンドパウダー。
S:ピーナッツじゃなかったか? 俺も日本で何回か食べたぞ。名前も「まころん」だと思ったが。
CE:まころん? そ…それはきっとフランスの真似よ。いい? フランスのマカロンは由緒あるお菓子なんだから。
遡ること16世紀、フィレンツェのメディチ家から、カトリーヌって娘がフランス王家に嫁いで来たの。
その彼女が連れてきた菓子職人が作り方を伝えたのが始まりって話。
CE:どう? 500年近くの歴史があるのよ。
S:フィレンツェのメディチ家からって、それじゃあ、もとはイタリアの菓子じゃないか。
CE:あ…。
S:こっちのマカロンもおおかた、イタリアのが元なんじゃないか?
CE:そ…そんなこと…。
K:そういやマカロンって名前、マカロニと似てるしな。
S:違いない。
CE:…信じられない。マカロンとマカロニを一緒にするなんて…ミラーさんって無神経なのね!
K:な、なんで俺だけ…おーい待ってくれ、セシール!
・「ワイン」
CE:スネーク。
S:なんだ。酔っ払っているのか。
CE:あの人、どうにかして。
S:誰のことだ。
CE:ミラーさん。
S:カズがどうかしたか。
CE:ワインよ。
S:ワイン?
CE:ビールばっかりじゃ隊員たちも飽きるだろうっていうから、ワインはどう? って勧めたの。
S:ほう、いいじゃないか。
CE:でもね、ここ2年ほどフランスのワインは不作だったの。
S:ああ、よだれよだれ!
CE:ありがとう。
S:それで?
CE:あのね、天候が不順だったせいだと思うんだけど、とにかく、今の時期ワインならフランスのものはよした方がいいってアドバイスしたのよ、私。
S:ああ、そうかそうか。まあカリフォルニアやチリにもいいワインはあるからな。
CE:ところがよ、彼ったらわざわざフランスの、しかも不作だった72年モノばかり倉庫一杯買い付けてきたのよ。
S:ああ…。そうかそうか…。
CE:「どうだセシール、故郷の香りを楽しんでみないか」ですって。
S:ほう…。それで。
CE:嫌な予感がしたから私、味を確かめるためにテイスティングしたわ。何度も、何度もしたわ。
S:ああ、そりゃご苦労だったな。…だが、普通はテイスティングじゃ飲み込まないはずなんじゃ…。
CE:ところが何本封を切っても、どのボトル取り出しても、全部、ぜんぶマズイの。
ただの一本も美味しいワインが無かったの! 何が故郷の香りよ…。
S:…そりゃ、残念だったな。
CE:もう信じられない! あんなにたくさんどうすんのよ!
S:ここの連中は味なんか気にしないさ。
CE:あんたさ…スネークさんよぉ。
S:なんだよ。
CE:あんたもミラーさんと同じこというのか?
S:え。
CE:アタイ文句言ったらあの人シレッとして言ったわ、「酔っぱらえばいいんだ」。
なんなのここの人達、味覚の野蛮人だらけじゃない!
S:ああ、よしよしよしよし。
CE:ありがとう。あんたいい人だよ。
S:ああ…。そうか。
CE:…私、パリに帰りたい!
S:…酔っぱらいすぎてないか、お前。
・「五月革命」
S:きみはなんというか、ずいぶんと奔放な…というか、解放的なというか、タガの外れたというか…。
CE:あら。
S:まあ、自由な女性のようだな。
CE:フリーダム!
そうかしら? パリの女性はみんなこんな感じよ。
S:みんな?
CE:そうよ、どう?
S:どうって…。
CE:五月革命以来ね。
S:五月革命…。大統領を辞職に追いやったゼネストだったか?
CE:ええ。1968年のね。だけどあれは、ただのストライキじゃなかったの。
元はと言えば66年にストラスブール大学で起こった学生運動だった。
それも、国に何かを求めたわけじゃなく、学内の改革を求めただけのもの。
でもそれは、あの頃世の中に不満を持っていた若者の心に火をつけて、フランス全土に広がったの。
ベトナム戦争への反対や当時のド・ゴール政権への反対運動、それだけじゃなくて自由恋愛や古い価値観からの脱却も叫ばれた。
今となっては何が目的の中心だったのかもわからないけど…。
ま、五月革命っていうのはただのゼネストや政権交代を越えた、若者たちのムーブメントだったってわけ。
S:よくわからないが…ヒッピー・ムーブメントのようなものか?
CE:似てるところはあるかもね。でも、私たちは神秘主義には溺れなかったし、自然回帰も求めなかった。
S:なるほどな。ヒッピーは閉鎖的な自分たちだけの世界を作ろうとしたが…。
CE:私たちは世の中を変えようとした。そして、みんなが力を合わせれば世の中を変えられることを知った。
S:…夢のような話だな。アメリカじゃもう、ヒッピーはただの社会問題だ。
カズのいた日本でも学生運動は失敗に終わったらしい。
CE:何が違ったのかしら?
S:さあな。俺が知りたいくらいだ。
・「AIとは」
ST:AIとはArtificialIntelligence、人工知能の略だ。
人によって創られた、人間並みの知能を持つ機械のことだ。
S:可能なのか? そんなことが。
ST:可能かだって? おまえも見ただろう、AI兵器の性能を。ザ・ボスの遺志を継いだ、ピースウォーカーの最期を。
ただの機械なら、自己犠牲など選択できるはずはない。
S:電子部品の塊が意志を持つなんてことが…。
ST:”TheGhostintheMachine"…あるんだよ、スネーク。機械に霊魂が宿ることが。
・「"TheGhostintheMachine"」
S:"TheGhostintheMachine"とは、どういう意味だ。
ST:ああ…あれはギルバート・ライルという哲学者の言葉だ。
デカルトは知っているな?
S:「我思う、故に我在り」…。
ST:そう。心身二元論を唱えた哲学者。「思う」心は、物理法則に支配された身体とは別の次元にある。デカルトはそう考えた。
だがこれが本当なら、「身体」という機械に「心」という幽霊が宿ったものが人間、ということになりはしないか?
人間とはそんなものではないはずだ…ライルはそう批判したんだ。
S:なぜ、それをあんたが?
ST:別にライルを意識して言ったわけじゃない。
人間が機械と幽霊で成り立っているなら、逆もあるかも知れない。そう思っただけ。
機械の中に幽霊を宿らせることで、あるいは人が生まれるんじゃないか、とね。
S:それが、ザ・ボスのAIだったと?
ST:あの時、記憶板はおまえに抜かれ、ママルポッドは停止していた。動くはずがない。
にも関わらず、ピースウォーカーは立ち上がった。平和の歌を歌いながら。
あの時、ピースウォーカーに彼女の魂が宿っていた…私にはそう思えてならなかった。
・「人工知能の見分け方」
S:もし仮に、機械が本当に知性を持ったとして、それを証明する方法なんてあるのか? それが、ただの高性能なコンピュータではなく、人工知能だと。
その違いは何だ?
ST:何をもって知能と呼ぶか、定義の問題だな。…スネーク。例えばだ、今話している、この声を発している私が、AIだとしたら?
S:何だって?
ST:生身の私はリビングで紅茶を啜っていて、おまえの相手をしているのは、私の思考を真似たAIの合成音声だとしたら?
S:からかうのはよしてくれ。
ST:いや、お前には、私が生身の人間であることは証明出来ないはずだ。
S:それは無理だろう。
ST:ふっ。入れ替わっても区別がつかないほどのAIなら、それは知性を持っていると言えない?
S:釈然としないな。
ST:だけど、一つの考え方だ。チューリング博士はAIの知性についておおむねこのように説明していた。
その検証方法はその名を取って、チューリング・テストと呼ばれている。
S:それにしても、悪い冗談だ。あんたの声で歌うAI兵器には、さんざん苦労させられた。もうごめんだ。
ST:残念だな。そろそろお前の話し相手もAIに代わってもらおうと思っていたんだが。
S:勘弁してくれ。
・「チューリング・テスト」
ST:アラン・チューリング博士は、コンピュータ科学の父とも言われている。AIの基礎理論は、彼が築いたと言っていい。
博士は大戦中、GC&CSで働いていた。
S:政府暗号学校…エニグマ解読か。
ST:そうだ。彼がいなければ、ドイツ軍のエニグマ暗号は解読できなかったかも知れない。
…だが、その後、彼は逮捕された。
S:なぜだ。大戦を終わらせた功労者じゃないか。
ST:当時のイギリスでは、同性愛は犯罪だった。彼はゲイだったんだ。
私には、彼の無念がよくわかる。彼の分までAI研究を発展させる義務が、私にはある…。
S:男女の違いこそあれ、か。
ST:そうだ。知っているか? チューリング・テストのヒントになったのは、他愛もないパーティーゲームなんだ。
ついたてをはさんだ相手と筆談して、性別を当てる。それが女なのか、女の振りをした男なのか…。
これを見極めるのは意外と難しい。男か、女か。機械か、人間か。その差が意味するものは何か。
彼は、男女の違いについて考え続けた。それがチューリング・テストという発想に繋がったのかも知れないな。
・「AIのモデル」
S:もし、AIのモデルがボスじゃなかったら?
ST:どういうことだ。
S:相互確証破壊を目的とするなら、もっとふさわしいモデルがいるだろう。軍の参謀、核技術者…それこそ大統領でもいいはずだ。
ST:そんなことか…私に言わせれば、ザ・ボスこそが20世紀で最も完璧な人間だ。お前も異論はないだろう。
愛国心、統率力、判断力…彼女にはすべてが揃っていた。どれも、核発射の判断に必要なもの。
S:それならば、大統領でも。
ST:それだけじゃない。彼女には、意志があった。
S:意志?
ST:いいかスネーク。ピースウォーカーはスタンドアローンな兵器だ。
核を発射すべきかどうか、自分一人で判断しなくてはならない。誰にも相談できない。
世界の運命を、たった一人で背負う覚悟がなければ、務まらない。それができる人間を、私は彼女以外に知らない。
S:…それだけか?
ST:もちろん、技術的な問題もある。AIがモデルにすべきなのは、そもそも女性の脳なんだ。
S:女性の脳?
・「AIと女性脳」
S:女性脳をAIのモデルにする…どういうことだ?
ST:スネーク、人の精神にあってコンピュータにないものとは?
S:…怠け癖か?
ST:面白い答えだ。間違ってはいないが…正解は、共感力だよ。
S:共感力?
ST:正確には感情移入する力、と言うべきかも知れない。子供を愛おしいと思う心、弱者を慈しむ心、死者を悼む心…。
どれも、女性の脳が得意とするもの。
S:極論だな。
ST:いや、結論だ。一方、男の脳は、物事のシステム化には向いていても、感情移入能力は低い。コンピュータに近いと言ってもいい。
AIがヒト同様の思考を目指すなら…。
S:学ぶべきは女性の共感力、というわけか。
ST:小説では「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」がこの問題を扱っていた。
この小説では、感情移入能力テストが、機械と人間とを見分ける手段になっている。
コンピュータの発達に伴って、これから社会のシステム化がさらに進んでいくだろう。
共感力の欠けた、ロボットのような人間が街にあふれる…そんな時代になってはならない。
コンピュータは共感力を得るべきだ。そして、ヒトももっと。
S:そう言うあんたはどうなんだ? 現実の人間に共感しているようには見えない。
ST:確かに、いままで私は死に囚われていた。ママルの研究が成功したら死ぬつもりだった。彼女の他に生きる理由がなかったから。
S:だが気が変わった?
ST:…彼女に教えられた。生きることの尊さを。
これからは現実の人間を見て生きたい。そう思えるようになれた。
S:そうか。
・「AIの必要性」
S:機械に人間同様の思考をさせる必要はあるのか? 報復の判断に共感力は邪魔なはずだ。
ST:確かに冷徹な判断と人間的な思考は相容れないものなのかもしれない。でもそれなら、人間的でない思考というのはなんだ?
電子計算機が発達し、人間より早く計算ができるようになったとき、人はある夢を描いた。
S:夢?
ST:そんなに高度な計算ができるなら、機械に人間並みの知性を持たせることもできるのではないか。
19世紀の作家リラダンは「未来のイブ」で、主人公が理想の恋人として人造人間を生み出すという物語を描いたが…。
そのように知性を持った存在を自らの手で生み出すというのは、おそらく人類にとって長年の夢だったんだろう。
S:AIの原点は人間の夢だったわけか。
ST:AIだけじゃない。文明とはそもそも、人類が夢を実現していく過程なんだ。
だけど、夢は悪夢でもある。”人間以外の知性”に対する畏れもあった。
S:勝手なものだな。
ST:チェコのカレル・チャペックが「ロッサム万能ロボット会社」で描いたように、知性を持ったロボットが人間に反旗を翻す恐れもあった。
1970年代の映画「地球爆破作戦」でも、知性を持った米ソのコンピュータが手を組み、人類の支配を目論むという物語が描かれた。
こういった恐怖心に対して、具体的な解決策を提唱したのがアイザック・アシモフのロボット三原則だと言える。
ロボットの知性は人間と異なるが、共存は可能であることを示したんだ。
コンピュータに知性を実装するには、知性とは何なのか深く知る必要があった。
そんななかで実現性があり、現実的に必要とされたのがエキスパートシステムだった。
・「エキスパートシステム」
S:エキスパートシステムとは何だ。
ST:ピースウォーカーに載せるAIは、もともとこのエキスパートシステムとして開発が始まった。
コンピュータが専門家のように判断をするシステム。一種の代行プログラムだ。
例えば、”Mycin”というプログラム。これは、処方すべき抗生物質を決めるシステムだ。
システムが患者に質問していくことで、処方薬を絞り込んでいく。
S:ピースウォーカーに、ペニシリンではなく、熱核兵器を処方させようとしたわけか。
ST:だが、単なるエキスパートシステムでは、力不足ということがわかった。
S:専門知識だけじゃ、核は撃てない。
ST:そうだ。専門知識は必要だが、それだけでは足りない。
報復攻撃の判断を下すには、もっと広範囲で条件を考慮する必要がある。
それこそ、世界の情勢全てが判断すべき基準になるんだ。
S:確かにな。処方を間違えれば、全世界がアナフィラキシー・ショックに陥る。
ST:狭い専門知識の中でしか判断できない”弱いAI”ではだめなんだ。
だから私は、ザ・ボスの思考をAIに学ばせた。”強いAI”…真のエキスパートシステムを作るために。
S:偏った見識に世界は任せられない、ということか。
ST:単純なエキスパートシステムなら、すぐにでも用意できる。
そうだ、作戦内容に応じて、携行する銃を決めるシステムはどうだ?
S:遠慮しておく。自分の生死を、他人の判断に委ねるつもりはない。機械になどなおさらだ。
・「AIの未来」
ST:今の技術では、AIはどうしても巨大になる。
だが、今後回路が集積化されていけば、小型化が進むだろう。それこそヒトの脳と同じ大きさか、それ以下にまで。
一方で、ロボット工学も進歩していくはず。ヒトの姿に似せた、アンドロイドが作れるくらいには。そうなれば…。
S:そうなれば何だと言うんだ。
ST:言わなくてもわかるだろう?
S:まさかあんた、ボスそっくりの機械人形を…。
ST:おまえも一度は考えたことがないか? 彼女が再び我々のもとに現れることを?
S:やめろ! そんなものは紛い物だ!!
ST:そう、潔癖なことね。
まあ、現実にはむしろ、AIは逆方向に進化していく可能性の方が高いだろう。
・「AIのもう一つの進化」
S:AIが逆方向に進化するっていうのはどういうことだ?
ST:大量の情報処理に特化した、システムとしてのAIだ。そこには人間の知性も、思考も感情もない。
個としての自我を確立するのではなく、集団として振る舞うことで、社会性を発揮する機械。
S:ミツバチのように?
ST:そうだ。個々の集めた情報を総合して、集団の振る舞いを決定する。ミツバチが、巣と花畑を往復するように。
そのためには、AIのネットワーク化が重要になるだろう。
S:うまく言えないが…不気味だな。
ST:だが、社会をコントロールするなら、こっちのほうが向いている。流通させたい情報だけを透過できるんだから。
もっとも、そんなロマンのかけらもないAIに、私は興味が持てないけどね。
・「蛹から蝶へ」
S:以前、あんたはママルポッドの事を”蝶”と言ったな。蛹、ピューパでも繭、コクーンでもない、”成虫”、イメイゴだと。
ST:ええ。ママルポッド以前のAIは、未完成品だったから。
S:未完成?
ST:機械を動かすには十分だけど、核報復のような高度の判断はできない。完成まで今一歩。だから蛹。
ザ・ボスのデータを入力することで、初めてAIは本来の姿を得た。蝶になって羽ばたいたんだ。
S:それで、ピースウォーカーのノーズアートに蝶を…。
ST:私は、ママルのAIに”BS-imago"というコードネームを与えた。
”BS”はボスの略だ。
・「AIのコードネーム」
S:あの馬鹿でかい無人ヘリを、ヒューイはクリサリスと呼んでいたな。これもAIのコードネームと関係があるのか?
ST:ああ、TJ-chrysalis6000だな。これも蛹という意味。他はGW-pupa5000、TR-cocoon7000…。
S:なるほど、ホバータイプにキャタピラタイプだな。…TJだのGMやらも、イニシャルか。
ST:ああ。ラシュモア山に胸像が彫られている、アメリカ歴代大統領の面々。
S:だったら、一人足りないな。
ST:それはレプタイルポッドのAIに割り当てた。AL-aurelia8000だ。
S:aurelia…”羽化直前の蛹”か。
ST:そもそも”BS"以外のイニシャルは、コールドマンの趣味だ。私は、伝統ある英国王室から取りたかったんだ。
MS、AV、EW…。
S:…何の略だ。
ST:わからないか? メアリー・スチュワート、アレクサンドリナ・ヴィクトリア、エリザベス・ウインザー…。
S:…全部女王じゃないか。
・「2001年宇宙の旅」
ST:「2001年宇宙の旅」という映画を知っているか?
S:聞いたことはあるが…。
ST:やはり。おまえに映画を観るような、文化的な習慣があるとは思えないからな。
S:光栄だ。その映画が何か?
ST:「2001年宇宙の旅」には、HAL9000というAIが登場する。探査船を制御する、高性能AIだ。
会話も交わせば、チェスも指す。
S:なるほど、どこかで聞いたような話だ。
ST:HALの描き方は実に秀逸だった。
S:というと?
ST:HALは、船長すら知らない秘密指令を受けていた。
それは当然乗組員達には話せない。そのストレスから、HALは狂ってしまう。
S:狂った?
ST:そうだ。解釈は様々だがね。HALは乗組員を次々と殺していくが、最後には船長に機能を止められてしまう…。
AIの成長、活用、問題点…そして死への恐怖。どれも素晴らしい洞察だった。
S:それが、AI研究の役に立ったってわけか。
ST:おまえはどうしてそう即物的なんだ。
役に立つ立たないじゃない。インスピレーションだ、あの映画が与えてくれたのは。
S:つまり、役に立った。
ST:もういい。この作品が素晴らしいのは、HALの描写だけじゃない。人類の進化に対する示唆に富んだ、映画史に残る名作だ。
・「ザ・ボスとの出会い」
S:ストレンジラブ、ボスとはいつ知り合った?
ST:…あの人は、宇宙を見た話を?
S:ああ。
ST:私も同じ宇宙を見た。彼女とともに。
ソ連のスプートニクに先を越され、アメリカは有人宇宙飛行の実現を急いでいた。
宇宙開発機関は極秘裏に彼女を被検体に立て、宇宙の闇に放り出した。
私はその計画に参加していたのだ。科学者として。
S:あれはあんたが…?
ST:そう。…その短い期間、私達はまるで一人の人間のようだった。
互いを求め合い、互いを埋め合った。
お前にわかるか? 女の中には宇宙がある。女同志なら、それを感じ合うことが出来る。
女の共感脳だからこそ通じ合えたんだ。
やがて…私はその尊い魂を犠牲にすることに、疑問を抱くようになっていった。
何故、人がそれを? 何故、彼女が…。
…飛行テストは辛うじて成功し、彼女は奇跡的に生還した。身も心も掻き削がれた彼女に私が代わってやることは何一つなかった。
私たちは一人ではなかった。
彼女は消え、やがて私は命の代替品としての、AIの研究に没頭するようになっていた。
彼女のような犠牲が二度と必要ないように。
S:俺は知らなかった…。
ST:ふん、知るほどの事でもない。
人生の一瞬を彼女とすれ違った、これが全てだ。
いつか気が向いたらまた、詳しく話してやる。
・「地下基地での尋問」
S:コスタリカの地下基地では、随分と丁寧にもてなしてくれたな。
ST:…済まなかった。だが、私はどうしても知りたかったんだ。
S:ボスの最後の行動をか?
ST:ああ。私は彼女の思考と行動を入力することで、AIに精神を宿らせようとした。
だが、彼女の最後の行動だけが理解できなかった。
S:スネークイーター作戦のことだな。
ST:公式には、彼女は祖国アメリカを裏切って亡命したことになっている。そしておまえに殺されたと。
…そんなはずがない。ザ・ボスほど、裏切りなどという行為から縁遠い人はいない。それは論理的な矛盾だ。
S:…そうだな。
ST:矛盾を内包したAIは、うまく起動しなかった…映画の中で、HALが動作不良を起こしたように。
論理的にはわかっていた。だが、私は裏付けが欲しかった。ザ・ボスの最後の行動を。本当の意図を。どうしても!
S:それを俺から聞き出そうと?
ST:そうだ。おまえの沈黙が、答えだったということだ。
・「ザ・ボスの白馬」
S:ザ・ボスが乗っていた白馬…。
ST:アンダルシアンのことか。
S:あの馬が、どうしてコスタリカに?
ST:私が探し出した。口は利けなくても、彼女の最後の証人だ。
それをこちらまで連れてきた。
S:どこで? 俺はてっきり、あの爆撃に巻き込まれたと…。
ST:八方手を尽くして探したよ…最終的には、イギリスの乗用馬マーケットで見つかった。
S:イギリスに? ソ連領内から、ウラル山脈を越え、海を渡ってきたとでも言うのか。
ST:さあな。誰かが連れだしたのかも知れん。
S:見た目が似ているだけの、別のアンダルシアンとは思わなかったのか。
ST:確証はない…いや、なかった、と言うべきか。
S:どういうことだ。
ST:おまえが一番よく知っているだろう。あの馬は決して誰も乗せなかった。私も何度か振り落とされた。
それが、おまえだけは背に乗せた…認めたくないが、そういうことだ。
S:…おかげで無理をさせた。
ST:だが、最後の走りは、とても老馬とは思えないものだった。
かつての主人を追って力の限り走る…馬としては本望だったのかも知れない。
・「ザ・ボスと平和」
S:あんたはどう思ってるんだ? ピースウォーカーの最後の行動を。
ST:私は彼女の思考を完璧に再現した。あれはまさしく彼女自身の判断だ。
最も優れた共感脳が過去と未来を熟慮し、地球規模で思考した結論…それは報復ではなかった。
それがわかっただけで私は満足。
S:…つまり、平和に抑止力はいらないと?
ST:そうは言っていない。大切なのは平和を願うことだ。
国家という巨大な怪物の思惑の前では、MSFも身を守る力が必要だろう。
生きていくためには、現実的な考え方も必要だ。
しかしそれでも理想は持ち続けなくてはならない。
理想と現実のギャップに苦しみ、それで理想を失ったりしたら…そのときは、MSFもそこまでだろうな。
・「ストレンジラブ」の由来
S:あんたのそれはコードネームか?
ST:いや、ただのあだ名だ。
知らないのか? キューブリックの「博士の異常な愛情(ドクター・ストレンジラブ)または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」。
1964年の映画…核抑止を皮肉ったブラックコメディだ。
S:あんたが映画に出たのか?
ST:そんなわけないだろう! その映画のせいで、私はこのあだ名をつけられた。
S:似ているのか? その映画の博士に?
ST:いや。あの博士は男だ。
S:それじゃ、なぜ…。
ST:ARPAにいた頃、私は自分の席にザ・ボスの写真を飾っていた。
異性との恋愛に興味も示さず研究に没頭し、席には女の写真を飾っている…。
周囲の愚か者達は、そんな私をからかって異常な愛情、「ストレンジラブ」と呼んだ。
映画を観ないような連中にとっても、あのタイトルはインパクトがあったらしいな。
ともあれ、彼らにとっては同性愛は異常(ストレンジ)なものだったんだろう。自分の基準でしか物事を見ることができない連中だ。
異常(ストレンジ)というのは独自の視点を持っているということ。私はむしろそれを誇りに思う。
・「経歴」
S:ここに来る前はARPAにいたのか。
ST:ああ。当時仕事としてAIの研究ができそうなのはあそこぐらいだったから。
S:その前は?
ST:私は元々、NASAにいた。そこで彼女と知り合った。
S:そしてボスを宇宙に…。
ST:…そう。あの事件がきっかけで、私は航空宇宙工学から離れた。
生身の人間にとって、宇宙はあまりに危険な場所。だから私は、AIの早急な開発が必要だと感じた。
結局、その後はロケットの安全性も向上し、人類も月面まで行ってしまったけど…。
いずれにしても冷戦の徒花だ。早い話、ロケットに核弾頭を積めば核ミサイルだから。
ゆえに宇宙開発でイニシアチブを取ることは、軍事的な示威行為でもあった。
S:その膨大な予算負担に米ソ両国は耐えられなかった。
ST:そう。キューバ危機の衝撃やベトナム問題もあった。そして緊張緩和…。
月面着陸でソ連を大きく引き離したアメリカは、72年でアポロ計画を終了させる。
同時期にARPAはDARPAに改称され、組織も縮小した。
AI研究の続行も困難になった。私にとってコールドマンの誘いは渡りに船だった。彼女のデータを集めさせることもできた。
S:その結果が今回の事件か。
ST:だが私達は、彼女に平和の尊さを教えられた。
・「マザーベースでの役割」
S:どうしてマザーベースへ来る気になったんだ?
ST:おまえに興味が湧いた。
S:俺に? …まさか、今度は俺をモデルにしたAIを…。
ST:はっ、それも悪くない。だが、もう人の思考そのものを移植するつもりはない。
S:…安心したよ。
ST:おまえはザ・ボスの遺志を継ぐ男だ。
そのおまえが人を集め、育て、一つの組織を作ろうとしている。その行く末を見てみたい。
S:AI研究に戻るつもりはないのか?
ST:誰がやめると言った。続けるさ。
S:ここでか?
ST:私にとっては、MSFという組織の成長過程そのものが、神経網の発達に重なって見える。
絡み合い、刺激し合って、その枝葉を広げる…いいインスピレーションになる。
S:面白いことを言うな。
ST:もちろん、ただで研究させろとは言わない。成果は還元する。
研究開発班に配属してみないか? 決して悪い結果は出さない。
・「ヒューイ」
S:そう言えば、ヒューイからもらったIDカードでは、研究所に入れなかったんだが…。
ST:ああ、奴のカードは無効にしたからな。
S:どうして。
ST:あんな奴を、私の研究所に入れさせるものか。
S:ひどい嫌いようだな。同じ研究をする仲間だろう。
ST:冗談じゃない。まず、奴のウジウジしたところが我慢ならん。
男のくせにこそこそ手紙なんて書いてないで、直接会って思いを伝えたらどうだ!?
S:だが、カードが無効じゃ会いにも行かれないだろう。
ST:それに! 何かというと自分を卑下したがる。二言目には「僕なんか…」だ。
なぜ自分のやっていることに自信を持たない!?
S:まあ、論文の盗用だしな…。
ST:大体、奴には主体性ってものがない。NASAでも、コスタリカでも、人の後を付いて回っては、「ねえ、何か手伝えることはないかな?」だ。
なぜ堂々と論陣を張って、私とやり合うくらいのことをしない?
S:そいつは俺でも勘弁してほしいが…。
ST:おまけに、人のつけたあだ名を、喜んで自分でも使ってる。その神経がわからない。主体性がないのも甚だしい。
S:ヒューイってのは、あんたが付けたあだ名だったのか…。
ST:そうだ。「サイレント・ランニング」というSF映画に出てくるドローンから取った。
S:ドローン?
ST:一種の作業ロボットだ。後を付いてきては人の指示を待っているところがそっくりだったんで、拝借した。
「2001年宇宙の旅」でSFXをやっていたダグラス・トランブルが監督したアメリカ映画だ。
S:意外だ。科学者ってのはSFが好きなんだな…。
ST:それにそもそも!
S:まだあるのか。
ST:そもそも、奴は男だ。
S:……さっきは「男のくせに」と言っていたようだが。
ST:…まあ、科学者としては優秀だ。
レプタイルポッドなしに、ママルポッドは動かない。脳幹や小脳のない大脳がないように。
それを設計した技術は、認めてやろう。
S:珍しいな。あんたが他人を褒めるとは。
ST:ふん。客観的に評価しただけだ。
私は、自分の意志で、前へ進む人間が好き。状況に流されるようでは話にならない。まずはそこからだ。
・「セシール」
S:あのラボで、セシールとは楽しくやっていたようだな。
ST:な…。人聞きの悪いこと言うな。私はただ、秘密を知られるわけにいかないから、仕方なく…。
S:風呂だって、わざわざ洗ってやらなくても、一人で入れて、外から鍵をかければ済むだろう。
ST:それは…。彼女が不安そうにしていたので、その…。
S:余計、不安にさせたんじゃないのか?
ST:彼女は美しかった。私はそれを讃えただけだ。
S:相当怯えていたぞ。
ST:危害は加えていない。彼女もそれはわかっていたはず。
S:だが身の危険を感じて逃げ出した。
ST:私はともかく、コールドマンに見つかったら何をされるか…。
そうね。本当は助けてあげたかった。だがママルの完成と引き換えには出来ない。
S:それで、彼女が逃げやすい状況を作った?
ST:そこまでやさしいと思う?
…まあ確かに、監視を厳しくはしなかった。建物から逃げ出すのは容易だったはず。
S:出た後の方が大変だったようだがな。
ST:とにかく、私は彼女のことで、責められるようなことは何もしていない。わかった?
S:ああ、それは信じよう。
・「ZEKEのAI」
ST:ヒューイからも聞いていると思うが、このマザーベースで生産できるパーツには限りがある。
だからZEKEのAIは、お前が引き抜いてきたAI兵器の記憶板を流用することにした。
S:それで上手くいくのか?
ST:人間の脳というのは、ひとつのパーツがひとつの機能を担当しているわけではない。
私たちのAIも同じだ。ある機能を持った複数のパーツ同士が連携し合い、その機能を強化していく。
例えば、センサーを制御する記憶板が多ければ索敵能力が上がる。機動を司る記憶板を多く搭載すれば機動力が上がる。
つまり、搭載する記憶板に応じて、AIの能力が変わってくるというわけか。
ST:そうだ。AIの機能を強化したければ、多くの記憶板を集める必要がある。
・「ザ・ボスAIとの違い」
S:ZEKE用のAIは、ピースウォーカーのものとどう違う?
ST:ZEKE用は人の思考を移植したものではない。核報復を判断する機能は載せていない。
その代わり、指揮官の命令に従って高度に自律的な戦闘行動を取る。歩兵を守り、敵を殲滅しつつ、もし指令が降りれば…。
S:核を撃つ。
ST:そんな機会が来ないことを祈ってる。
S:ああ。それは俺も同じだ。
・「VOCALOID」
ST:メタルギアZEKEの音声合成システムについて説明しておきたい。
S:音声合成システム?
ST:通常の兵器なら操縦者が話をすればいいが、自律行動するAI兵器には操縦者がいない。
AI兵器自身が状況を周囲に伝えないと、周囲の歩兵と連携した行動ができない。
S:確かに。戦場でも言葉でのコミュニケーションは重要だ。
ST:だからAI兵器には音声合成システムが搭載されている。
とはいえ、自らの意志で会話ができたのはピースウォーカーだけだ。
他のAIは、プリセットされた言葉を状況に応じて発声している。
ZEKEに関しても同じだが、お前があらかじめ音声を用意しておけば、好きなときにそれを使うこともできる。
音声を用意したければエクストラメニューからEDITモードに入ればいい。
S:用意周到だな。
ST:歌を歌わせることもできるぞ。
S:歌?
ST:歌は大切だ。私はあのとき、歌の力を思い知らされた。
もっとも、ZEKEのAIが自分の意志で歌うことはない。
あくまで、用意された歌を再生するだけだ。
スネーク、お前には作曲は無理だろうが…歌詞は好きなように変えてみるといい。